高音の練習をする時に、頭頂や額に音を感じたり、軟口蓋を持ち上げようとしたり、とにかく上方向に力を入れようとする事が多いかと思います。しかしそれと同じくらい下向きの力も必要です。
この下向きの力は、鎖骨の間に向かって沈みながら集まってくるような力です。そしてこの運動と横隔膜が連動しているのも感じられます。
声帯が高い音で振動するためには薄く引き伸ばされるか、短くなる必要があります。短くしてしまうと貧弱な表情の乏しい声になってしまいます。モーツァルトのオペラ「魔笛」のパパゲーナのおばあちゃんのときの声は声帯を短くした声です。喉の開いたファルセットと、狭くなったファルセットを比較してみても分かると思います。結局声帯を薄く引き伸ばす以外には選択肢はないことになります。
そうすると上方向に声帯を引っ張るだけではだめで、下方向にも引っ張られる必要があります。両方向から引っ張ることにより最大限に薄くなるわけですから、理論的にはとてもわかりやすいのですが、実際に下方向に力を感じながら声を出すと、響きが落ちてしまい、とても高音のための練習にはつながらなくなったりもします。結論から言うと、下向きの力を入れれば入れるほど、声が上に広がるような下向きの力を探さなくてはなりません。下向きに力を感じるとより響きが上に出てくるわけですから、なかなか難しいところもありますが、そのような下向きの力を見つかられるかが高音獲得の重要な要素となります。
上向きの力を感じるだけでも、それらの筋肉の逆方向の反応として下向きの筋肉も消極的にではありますが、動いてきます。しかし、これだけに頼って積極的な運動ができないままでいると、バランスを壊す時が来たり、それ以上の発展がなかったりします。下向きの力もしっかりとコントロールされなければなりません。
お腹をしっかり使って声を出そうとすると、喉付近には下向きに引っ張る力を感じられます。高音発声で横隔膜の支えが重要な理由の一つが、この下向きの力にあります。お腹を使うとより上に響きが出てくるのが正しく、響きが落ちてくる時は喉に対して正しい支えができていないという事になります。
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