中間域から高い音に向けて練習していくとき、また逆に低い音に向かっていくときにそのままだと出しづらくなり、発声が少し変わる場所が出てきます。これをチェンジ(英語)とかパッサージョ(イタリア語)と呼んでいます。そしてチェンジの場所が基本的に低い方と高い方2カ所あることから、声は3つの声区に分けられ、低い方から低声区(胸声区)、中声区、高声区(頭声区)に分類されることもあります。声区についてはこちらもご覧ください。
チェンジは必要になった時に考えれば良いです。通常2オクターブ以上の音域が使えるはずですので、極端に狭い場合はチェンジ以降の声区が使えていません。
チェンジが起こるシステムは単純です。低い声を出すときは声帯が厚くなっていないといけません(太い弦のような感じ)。厚い声帯のままで少しずつ張力を加えて声帯をひぱって行くことで音程を上げていきます(ヴァイオリンの糸巻きを締めて音程を上げる感じ)。このままで音程を上げていった場合に、もう上げられない限界がやってきます。その時に声帯を薄く設定します(細い弦に替える感じ)。そうするとさらに高い音が出て、また糸巻きを閉めるように声帯の張力を増やして高音に向かいます。この限界がもう一度起こり、さらに細い弦の準備が必要になります。これが2カ所のチェンジの仕組みです。
そして段階的に薄い声帯を準備するときに、音質が変化していきます。つまりチェンジには音質の変化が不可欠なわけです。そして演奏者も指導者もこの音質の変化の具合で、チェンジが上手くできたとか、うまくいっていないとかの判断をすることになります。
チェンジを意識的に練習しなければならないのは次の2つです。1つは音域が狭くチェンジのあとの頭声か胸声が全くない場合か、その音域の声が曲で使えるほどの音質にならない場合。2つめはチェンジで大きく声が変わってしまい、その前後がつながらない場合。
自分ではチェンジを全く感じない人もいます。この場合2つ考えられて、とても器用に無意識にチェンジが行われている場合、もう一つはチェンジしたあとの音域を使っていない場合。前者の場合はとても広い音域を滑らかに自由に行き来できます。わざわざチェンジを考える必要はありません。後者の場合は1オクターブと少しの音域しかないか、低い方か高い方に片寄った音域しか使えません。この場合は意識的にチェンジをさせて、今まで使っていなかった音域を使おうとすることが必要になります。使っていなかった音域を使うわけですから、今までとは違う声の出し方になります。慣れていないので貧弱な声になったり、不安定になったり、苦しくなったりしますが、まずは使うことが大切です。
チェンジをヴァイオリンの弦の交換に例えて説明しましたが、声帯ですので、無段階に少しずつ細い弦に取り替えるようなことも可能です。これがうまくいくと、声区に分かれていたものが、1声区のように感じられます。最終的にはこれが理想です。
音域の狭い人やチェンジの箇所で滑らかにつながらない人は、チェンジの練習する必要があります。出しにくいと感じる方の声区をよく練習して、他の声区と同じくらい出しやすくするのが第一歩となります。
最後にもう1つ。作品の善し悪しとは別に、歌いやすい曲と歌いにくい曲があります。この違いにはチェンジの部分を切り換えやすく作曲されているものと、それが無視されているものも関係します。歌いにくい素晴らしい作品もありますので、挑戦したいところですが、チェンジにトラブルを感じる人は、歌いやすいものを探した方が練習がはかどるでしょう。
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