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倍音は多い方が良い?~発声の考え方6

倍音とは

 声の音色に倍音が関係するし、倍音が多ければ良い音になるになる、と言われるとそうなんだと思うかもしれませんが、果たして本当にそうなのか考えてみます。倍音はある周波数の音を出した時に同時にその1オクターブ上の音、1オクターブと完全5度上の音、2オクターブの音等と元々の音と違う周波数の音が聞こえる現象を指します。例えば100Hzの音を出した時に、1オクターブ上の200HZ、1オクターブと完全5度上の300Hz、2オクターブ上の400HZの音等など・・・・が同時に聞こえるということです。

倍音が強いとどうなるか

 倍音がとても強く出ているとしたらどうなるかを考えてみます。元の音より1オクターブ高い音がより強く出たらそれは元の音ではなく、1オクターブ高い音になり、さらに1オクターブと完全5度上の音が一番強く出たらドを出そうとしたらソになってしまうことになります。倍音が多ければ良いということではないということです。ヨーロッパに行くと街の中心に大きな教会があり、ある時間になると鐘の音が聞こえます。何かの音楽を奏でていることもあるのですが、低い方の鐘の音が倍音の方が強く聞こえ、どのようなメロディーか分からないことがあります。もちろん声でそのような音を出すことは不可能だし、出せたとしても良い音になるわけではありません。

声の波形~発声のしくみ51

基音と倍音以外の音

 実際に声を出すと基音と倍音以外の音程も聞こえます。基音と倍音だけに近い音がファルセットです。この時声帯は薄く引き伸ばされ、声門の閉鎖もあまり強くありません。

 通常の声はもっと色々な音程が混ざりますが、中心の周波数の音が一番しっかり聞こえますので、しっかりと音程を判断することが出来ます。声帯はしっかりと引き伸ばされていますが、声門の閉鎖も強く、ある程度厚く声帯はふれ合って振動しています。

 わざと汚い音を出すと色々な周波数が混ざって、中心の音程がなんなのか分からない音を出すことも可能です。この時声帯はほとんど引き伸ばされず、しかし声門はしっかりと閉鎖され、声帯はバタバタと不規則に振動します。声帯を引き伸ばすことを発声では喉を開くといいますが、これが極端に弱いと音程の無い声になってしまうのです。逆に音程が分かる声が出せているだけで、ある程度喉は開いていますので、そのための筋肉や神経は働いていると言えます。そして音程が分かるような声が全く出ない場合は声帯を引き伸ばすための筋肉か神経に損傷があり、訓練でどうにかなるものでは無いことも多いかと思います。

声の波形2~発声のしくみ56

倍音を練習の課題にすること

 倍音は多ければ良いということではないので、倍音が強く出るように練習する必要はありません。さらに基音と倍音のみの音が一番良い音かというと、そうでもありません。多少の雑音がある方が良い音であり、しかし、雑音が多くなりすぎると汚い音になります。波形や倍音で音の良し悪しの判断をすることは難しいです。良い音を数値化することは不可能だと思います。ではどのような基準で良い音を目指すのかという疑問が残りますが、表現力のある声につきるのではないでしょうか?澄んだ音では苦しみや悲しみの表現、さらには本当に心地良い幸せな音にもなりません。音質の良さをそれのみで判断することの難しさは常に考えるべきところだと思います。