レッスンをしていくと、特定の母音を歌いにくいと感じている生徒さんが結構多いと感じます。特に多いのが「エ」の母音で、「エ」だけ音質が変わってしまったり、音程が不安定になったり、長く伸ばせなかったりするようです。もちろん他の母音が苦手だと感じる方もいらっしゃいます。しかし、発声練習ではあまりいろいろな母音を使ったものは多くなく、大抵「ア」を使いたまに「オ」や「ウ」さらに時々「イ」、たくさんの人が苦手だとする「エ」の練習はあまりありません。たまにロングトーンしながら「アエイオウ」と母音だけ変えながら、同じ音色にする練習などもありますが、それほど多く練習されません。この理由を考えていきます。
一番大きな理由はそれぞれの母音の練習はそれほど必要ではないからです。発声は、呼吸筋から始まり、声帯の形を作るまででほとんどの作業は終了します。母音はその後、口の中の容積や形の変化で作っていきます。本当ならば、直接発声に関係のない口の形が変わっても、声帯の振動は変わらないのです。音色が変わったり、音程が変わったり、安定感が変わったりするはずはないのです。なのに、母音を変わる時に声帯が影響を受けてしまったのが、特定の母音で歌いにくくなるからくりです。
これに対して、根本的な解決方法は基本発声のレベルアップしかありません。口の形が変わっても発声器官が揺らいではいけないのです。これに対して、口の形が変わることによって、どうしても発声器官のゆがみが起こるものだとしたら、もっと母音が変わっても声帯の形が崩れないような練習をしなくてはなりません。しかし実際あまりこのような練習が取り上げられていないのは、例えば「ア」の母音だけで練習していっても、本当に発声が良くなっていけば、母音の違いでのばらつきはなくなっていくからです。発声の力がしっかりと付いてきた生徒さんでは母音の問題はほとんどなくなっていきます。
それでも母音が変わっても音質が変わりすぎないような練習は可能ですが、あまり長くこの練習をすることは勧められません。というのは声帯の形が崩れないような練習をするということは声帯付近に力を入れて固定させるといった練習になってしまいがちですので、たとえ母音の色の差が減ってきたとしても、結果堅い音になったり、音域が狭くなっていったら逆効果です。
母音の音質にばらつきがある時、試験やコンクールの前などごまかしてでも形を作る必要のある時以外は、指導者は発声の基礎をよりよくしていくことに専念し、その結果として母音の音質を確認する方が良いです。発声の進度の確認としてはとても有効です。
「エ」の母音が歌いにくいと思う方が多いのは、一番中途半端な母音で喉が開きにくいからです。「ウ、オ」の母音は無条件に喉を開きやすいし、「イ」は口をしっかり横に引っ張ると、頬骨を持ち上げたり、声を前に出すのと同じ効果で喉を開きやすくなることもあります。「ア」がきれいに出せないと発声そのものが悪いと思う方が多いようで、結局残った「エ」が問題ありということになるようです。
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