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お腹を使って歌うということは喉に力を入れるということ~発声のしくみ61

 歌のレッスンでは喉を開けるということとお腹を使って歌うことが一番良く言われることですが、その中でお腹を使って歌うことについて考えていきます。お腹を使うと言うことは必ず横隔膜についてのことになります。呼吸法についてとなると横隔膜以外のことも必要になりますが、お腹から声を出すとか、お腹に力を入れてとか言う時には必ず横隔膜を指します。

 当然のことですが、横隔膜を使うことによって声帯が影響を受けてはじめて発声に意味が出てきます。お腹に力を入れても声帯の状態が変わらなければ、全く意味の無いことになります。(お腹に一生懸命力を入れているのに声帯の状態が変わらず無駄な努力を続けている人も結構います) 

 本当は二つの違った方向で横隔膜は声帯に影響を与えますが、お腹を使って歌うといわれる時には声帯の閉鎖を強くすることだけを指します。このことによってお腹をしっかり使うと大きい声が出るわけです。

 しかし、喉に力が入っているからお腹を使うことで力を抜かなければならない、と言われることもあります。とても変なことですが、よく言われますし、実はある部分正しいことでもあります。ただ文字通りお腹に力を入れることによって喉の力を抜こうとしたら、声帯に全く変化を加えない、無駄にお腹に力を入れるだけの発声になりやすい。それから同じ場所の力を入れて力を抜くと言った絶対に不可能なことに向かって努力することになってしまいます。でももちろんそんなことはありません。

 まずはお腹に力を入れることが声帯に伝わり、ちゃんと喉に力が入るようにしなければなりません。お腹に力を入れた分、声帯がしっかり閉じるように力を入れられるのがお腹と声帯の関係になります。ですので、ここで喉の力を抜くということは全く考える必要が無いのです。声帯をしっかりと閉鎖させるためには結構力が必要です。しばらく寝たっきりの生活になってしまうと、途端に声が弱々しくなったりしますが、これは声帯の閉鎖が弱くなってしまうからです。

 さてこのようにお腹に力を入れた分、声帯に力が入るように声を出すとすべてが上手くいくわけでは無く、喉っぽい音になったり、音程が下がりやすくなったりします。これは当然のことで、声帯が厚くふれ合うのですから音程が下がるのが自然なことです。こうなると喉に力が入ってしまったから喉っぽい音になってしまった、お腹に力を入れた分、喉の力を抜かなければと考えてしまうかもしれませんが、これが前に書いた喉に力を入れて力を抜くといった、あり得ないことをしなければならない状況に追い込んでいくことになります。

 ではこの時どうしたらよいかというと、喉の力を抜くのでは無く新たな力を加えるのです。これは声帯を伸展させる力です。このことを喉を開けるといっています。お腹に力を加えることによって声帯が厚くなり、その結果音程が下がりやすい声になりますので、その分声帯に張力を加え、閉鎖は強いのに強く引っ張られた声帯を作ることによって、音程もキープでき、音量もある声になります。

 実際の練習ではまず声帯が十分に引き伸ばされる練習をします。2度でも音程が変わると、必ず声帯の張力が先に変わって音程を変化させる癖を付けます。そうすると音量が変わる時にも張力が変わるようになっていきますので、この段階で横隔膜と声帯の閉鎖をつなげる練習をしていくと、この2つの運動が同時に起こるようになります。喉の力を抜くことでごまかすのでは無く、十分な閉鎖と十分な張力を同時に使えるようにしていくわけです。

 お腹を使って歌う練習をする時にはお腹に力を入れただけ声帯が反応してしっかりと閉鎖が起こり、大きな声になることが必要になります。その分ちゃんと声帯に力が伝わらなければなりません。ではなぜ喉の力を抜くためにお腹で歌うといわれるのかという疑問が残ります。これは、大きな声を出すためには絶対に声帯が強く閉じられる必要があるのですが、あまり大きな声を出すことに慣れていない人が大きな声を出そうと頑張ると、まずは声帯に近い筋肉が先に動いて閉鎖を強くします。こうなるとそこに張力を正しく加えることが不可能な声帯になってしまいます。そこで横隔膜が先行して閉鎖をしてくれると、喉にゆとりが出来て、閉鎖と声帯の引き伸ばしが同時に出来るようになります。こうなると発声が楽に感じられるために力を抜くといわれます。しかし実際は結構力を加えているのです。本当に力を抜いているわけではないので、力を抜こうとすると上手くいきません。お腹に力を入れたら、その分喉に力が伝わるといったシンプルなことを、力が入らないように頑張ってしまうと、進歩は難しくなっていきます。