腹式呼吸は息を吸う時にお腹が膨れていくように感じられることから名前が付きました。このことにこだわる必要はありませんが、完全に嘘というわけでもありません。しかし多少お腹に息を感じられるようにブレスをしようとすると、結構時間がかかってしまいます。普通に吸うと数秒かかるし、頑張って急いでも1秒くらいはかかってしまいます。休符があればなんとかなりそうですが、全く休符の無いところでのブレスには時間がかかりすぎます。
お腹を膨らますようにブレスをするという意味での腹式呼吸は間違いが多くありますが、肩が上下するような激しい運動をしている時のような呼吸も良くないでしょう。歌う時にはゆっくり息を吐く必要がありますが、それが苦しくなるような息の吸い方は良い発声にはつながりません。お腹に吸うかどうかは別にして、体の深いところに息を感じられるような吸い方をしなければなりません。
実際に良い発声のための呼吸をすると、ベルトのあたりからさらにその下が広がったように感じられます。そうなるとさらに時間がかかります。レッスンではこの呼吸が上手くいかない場合、早い時期にこの呼吸の練習をします。これが上手くいかないと声帯の運動も横隔膜の運動も上手くいかないことが多くなってしまいます。特に声楽の経験のない人でもこの呼吸は最初から出来ている人も多いです。スポーツの経験のある人のように、呼吸筋を活発に使うことのある人は特別なトレーニングは必要ないことが多いです。
深く息を吸う練習をする時は、時間をかけて息を吸います。3秒くらいでしょうか。そうするとブレスの度に3秒くらいの時間が必要になって、音楽は途切れ途切れになってしまうことになりますが、実際はそんなことはありません。
深く息が入るのと横隔膜が広がるのは違う場所です。別のものとして把握しましょう。
息を吸うことによって広げるのではなく、広がったところに息が入るようになると瞬間的に息は入っていきます。呼吸の練習が必要な人でもしばらく深く息を吸う練習をしていくと、段々と息が溜まっていく部分の筋肉がほぐれて、瞬間的に広げられるようになります。そうなると息を吸って広げる必要はなくなり、広がったところに息が戻っていく感じになりますので、とても短い時間で息を吸うことが出来ます。
腹式呼吸をしようとするとどうしても常に息を吸うことによって横隔膜を広げようとしてしまいますが、横隔膜はある程度広がっていれば良いので、息で広げなくても良いのです。息の溜まるべきところの筋肉が充分に緩んで息の準備が出来、同時に横隔膜が広がっていれば呼吸の準備は完了です。さらにこの準備が出来ると自然に、声帯は引き伸ばされますので、それだけでも歌う喉の状態が準備されることになります。正しく息を吸えるとそれだけでこの準備が瞬時に出来るようになります。
最後に、速く息を吸う練習は必要ありません。正しく息を吸えるようになったら、同時に素早く息が入るようになります。それまでは時間をかけてでも深く息を吸えるように練習を続けなければなりません。
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