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腹式呼吸~発声の考え方2

腹式呼吸とは

 腹式呼吸については今までも何度も書いていますが、どのように考えたら良いかを書いてみます。まず、腹式呼吸という言葉の定義がとてもあやふやです。もちろん医学用語ではありません。緊急で搬送された患者に医者が「さっきまで腹式呼吸をしていたのですが、胸式呼吸に変わってしまいました。」など話しているシーンはあり得ません。定義されていない言葉を使って物事を考えようとするなら、まずはその定義をしなければなりません。結局こんな曖昧な言葉で発声を考えるより、別の考えをした方が良いに決まっていますが、あまりにも頻繁に使われているので、少し考えてみます。

横隔膜~呼吸法 2

腹式呼吸と胸式呼吸は対立する要素ではない

 腹式呼吸と胸式呼吸と言う言葉は息の吸い方から付けられた言葉だと考えられます。発声は息を吐きながら行われるので、これだけでも息の吸い方に注目した言葉が発声に最重要なものではないことが分かります。それでも二次的に必要なのかもしれませんので、もう少し考えてみます。

 寝ている人のお腹を見ると、息を吸っている時に膨らみ、息を吐いている時にしぼんでいきます。この様子から腹式呼吸という言葉が生まれてくるのは自然なことかもしれません。次に激しい運動をした後、肩が上下するような呼吸をすることがありますが、この様子を見て胸式呼吸という言葉が想像できます。

 肺は肋骨に囲まれていますので、骨のないところ、つまり横隔膜のある下方向に広がるのが一番楽です。通常の酸素量で足りる時にわざわざ動かしにくい肋骨まで広げて呼吸する必要はありません。しかし、運動の後急に多量の酸素が必要になったら、肋骨まで動かして最大限に酸素を取り入れようとします。

 ここで大切なのは横隔膜が動くことと肋骨が動くことは別の器官なので、同時に使うことが出来るということです。例えば通常の呼吸の時は、横隔膜が最大に比べて50%動き、肋骨が5%だけ動く呼吸をしているとか、激しい運動の後は横隔膜が90%、肋骨も90%動く呼吸をしていると言うことは言えるかもしれません。つまり今は腹式呼吸をしているとか、今は胸式呼吸をしているとか言えるものではないということです。

呼吸は息を吐き方が重要

 腹式呼吸はこのようなものなので、たとえ横隔膜を自分で使える100%の力で上下させ、それでいて肋骨が全く動かない呼吸が出来たとしてそれが理想の発声に近づくのかというのは非常に疑わしいことになります。要するに定義のはっきりしないよく分からないものに固執するよりも、あっさりそれを捨てて次のステップに進む方がよっぽど良いということです。

 しかし、呼吸は発声にとってとても大切な要素です。そして一義的には息を吐く時の呼吸筋の使われ方と、その時の声帯の変化が何よりも注目されるべきところになります。息の吸い方は二次的になりますし、息を吐く時の呼吸筋と声帯の関係を邪魔しない、もしくは助けてくれる事にのみ重要で、その他は考える必要のないものです。

腹式呼吸~発声の情報を見分ける2