以前は歌の発声は絶対的に腹式呼吸でなければならない。
という意見ばかりで、その腹式呼吸とはなんぞやということが問題にされ、
お腹が膨れるように吸って、お腹がしぼむように吐くとか、
吐く時にもお腹がしぼまないようにするとかが話題になっていたように思います。
しかし最近腹式呼吸は間違いで、胸式呼吸をしなければならないとか、
初心者は腹式呼吸をした方が良いが、
プロはみんな胸式呼吸をしているといった意見を耳にすることがありました。
今回はこのことについて考えてみます。

物事を考える時に誰かの意見をそのまま考えること無く信じてしまうのは、
あまり良くないと思うことが多々あります。
すべての意見を無条件に受け入れることは出来ないので、
ここでは誰の意見が信じられるのかという話になって、
本当に考えなければならない内容はどこかにいってしまいます。
どんなに有名な人の意見でも、
どんなに尊敬している人の意見でも必ず自分で考えて結論を出す必要があるし、
その過程で尊敬している人の言葉の中に潜んだ本質が見えてくることもあります。
考えずに受け入れることはそのチャンスを逃すことになり、
かえって浅い受け止め方になってしまうこともあります。

そのまま受け入れるので無ければ、
何かしら考えていかなければなりませんが、
その時によく二元論が使われます。
今回もその例で、腹式呼吸と胸式呼吸といった対立する2つの考え方があり、
そこから最適なものは何かを考えていく方法です。二元論だけでは無く、
その他にも物事を考える方法はありますが、よく使われる方法の一つだと思います。
さて二元論で物事を考えると、どちらかが正しくてどちらかが間違っているといった結論になりそうですが、
結構な割合で、第3の結論に達することがあります。

例えば子供に「うそをついてはいけません」と教えるとします。
ここで対立するものとしては「うそをつかなければなりません」ということになります。
子供に「うそをついてはいけません」と教えることはあっても、
「うそをつかなければなりません」と教えることは無いでしょう。
しかし子供が「クラスの**ちゃんは嫌いだから遊ばない」と言った時に、
正直で良いねと褒めるわけにはいかないはずです。
さらに嫌いだと思っていたクラスメートとも、
自分にうそをついて好きなふりをして遊んでいるうちに、
その子の良さがわかり大親友になることもあり得ます。
単純な例ですが実はうそをつくことも大切なことです。
このような二元論で考えることを哲学の世界では弁証法といいます。
対立する2つの要素がある時にどちらかということでは無く、
昇華と言われますが、そこから新たな結論を導き出す方法です。
古典音楽でよく使われる、ソナタ形式も弁証法の考え方が生かされています。

今までは絶対的に腹式呼吸で無ければならないという、
疑うこと無く発声はそういうものだという常識だったところに、
「うそをつかなければなりません」のように、
胸式呼吸にしなければならないと言う対立する考えが入ってきたことになります。
ここで第3の昇華された結論を導き出す必要があるのだと思います。
呼吸に関しては他の記事で何度も書いていますので、
それらを参考にしていただければと思いますが、
とりあえず腹式呼吸、胸式呼吸はともに息の吸い方を問題にしていますが、
実際発声では息を吐きながら声を作りますので、
吸うことよりも吐くことがより大切であることと、
当然のことですが息は肺にしか入りません。
肺は肺胞という小さな器官が膨れることで息が入ってきますが、
肺の下部だけが膨れたり、上部だけが膨れたりすることは考えられないので、
腹式呼吸をしていると思っていても肺の上部にも息は入るし、
胸式呼吸だと思っていても横隔膜が下がるようにお腹にも息は入ります。
つまり、息を吐くことよりも吸うことに注目しているし、
腹式か胸式かと完全に分類することも出来ないとても曖昧な用語だということです。

呼吸では長く安定した息を吐けることと、
声帯の閉鎖や伸展に大きく関与する横隔膜が自在に動かせるし、
横隔膜の変化が繊細に声帯に伝わることが大切なことになります。
吸い方はこれを助けても邪魔しないように出来ればそれはすべて正しいことになります。
腹式呼吸~腹式呼吸が出来なければならないといった束縛から自由になる
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