前述のiTunesを使って少し比較をしてみました。シューベルトの「冬の旅」6曲目のWasserflut(あふれる涙)は前奏に、右手は三連符、左手 は付点のリズムがかかれています。現代の楽譜であればずらして演奏されるものですが、シューベルトの時代には三連符を付点で書くこともよくありました。厳密に楽譜に表すなら、付点の出てくるところすべてを四分音符、八分音符のペアにし、括弧を付けて3と書き込まなくてはならないのですが、それをよく省略し て付点で書いてしまうということがあったようです。下はWasserflut(あふれる涙)の楽譜です。
と言うことで、この曲の場合ずらすべきか、同時に演奏すべきかが問題になるのですが、iTunesを使って調べてみまし た。41演奏中10の演奏が同時に、残りがずらしていました。同時に演奏をするという考えが出てきたのは割合最近になってからですので、数だけではどちらが正しいかは分かりません。古い録音はすべてずらしてありましたし、わりと新しい録音でも、ずらしているものもありました。
三連符の問題は1拍目だけではなく、2拍目3拍目の付点四分音符と八分音符の組み合わせも、三連符で演奏される可能性があります。そうすると全体がなめらかにやや長いフレーズ感が出ます。付点で演奏するとあちこちでつまずいたような演奏になります。主人公の目から流れるまだ 熱い涙をどのように演奏するかが、このリズムの選択と大きく関わってきます。
ちなみにほぼ全体を三連符で演奏されたものが、3っつありました。
結局何が正しいのかと言うことを追求していくことも大事なのですが、いろいろな可能性を考えて何を歌うのかが大切だと思 います。もっといろいろな研究がされて、どちらが正しいか結論が出たとしても、違うリズムで演奏されたものは取るに足らない演奏ではなく、すばらしい演奏 はやはりすばらしい・・・。
私が演奏するときは付点のリズムはすべて3連符で演奏します。1小節目を見てみます。1拍目はemollの主和音、2,3拍目は属7で出来ています。和声的には1拍目は安定、2,3拍目緊張となります。付点と3連符をずらすと、常に緊張が続きます。緊張感が持続されるとも考えられますが、強く緊張されるところが目立たなくなってしまうともいえます。つまり、1拍目から緊張の持続した状態が必要なのか、2,3拍目に強い緊張があるのかの違いになります。さらに歌に入って、主和音属和音の繰り返しが続き、12小節目のWeh(痛み)の歌詞のところで、突然4度調の属7から属9に変化する強い和音が現れ、また元の調に帰って行きます。これも同じ考え方ですが、ずっと持続した緊張を感じるのか、突然12小節目に強い緊張を感じるのかの違いになります。突然現れる強い緊張のために、今のところ私の演奏はすべて3連符を選んでいます。
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