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An die Musik(音楽に寄せて)~シューベルト 4

Du holde Kunst, in wieviel grauen Stunden,
Wo mich des Lebens wilder Kreis umstrickt,
Hast du mein Herz zu warmer Lieb entzunden,
Hast mich in eine Beßre Welt entrückt.,

Oft had ein Seufzer, deiner Harf entflossen,
Ein Süßer, heiliger Akkord von dir
Den Himmel beßrer Zeiten mir erschlossen,
Du holde Kunst, ich danke dir dafür!



君、やさしい芸術よ、どれほど辛いときに、
人生の荒々しさが僕を包んだときに、
君は僕の心に温かい愛の炎を灯し、
僕をより良い世界に連れて行ってくれたことか。

しばしば君の竪琴から流れ出したため息が、
君の甘い、聖なる響きが、
より良い時の天を僕に開いてくれた
君、やさしい芸術よ、君に感謝します。

音楽に感謝する曲

 シューベルト20歳の時の作品です。詩は友人であるショーバーによるもので、音楽をたたえ、感謝するといった内容です。特別に詩の内容も難しくはなく、音楽もいろいろな技法を盛り込んだ作品とはなっていません。

転調がない

 全体を通して一度も転調がありません。和声感覚がとりわけ優れていたシューベルトには珍しいことです。前奏は主和音、属和音の揺れがあるだけですが、展 開形が使われ、また最初のベースが休符になっていることで、やや動きの予感を感じさせます。ちなみに今の楽譜では速度記号にMäßig(中くらいのテンポ で)と書かれていますが、初稿はEtwas bewegt(やや動きを持って)でした。歌が始まってからも主和音と属和音の揺れが中心で、それをいくつかの借用和音でつないでいます。

転調がないのは気持ちが変化しないからでしょう。一貫して音楽への感謝が書かれています。

半音階

 その中でやや目立つのが、ベースラインに現れる半音階です。8小節目の上行形、10小節目の下降形、12小節目の下降形、それから15小節目からの長い上行形。半音階は音楽を不安定にしていきます。8小節目のLebens wilder(人生の荒々しさ)の背後に使われる半音階はさすがシューベルトという感じもします。そして、最後の長い半音階は最初のものとは正反対の使われ方で、同じ半音階の不安定な感覚が、現実を超えてよりすばらしい世界の出現を感じさせてくれます。

低い音が難しい

 1番の歌詞とメロディーをみてみると、ぴったり寄り添うように作曲されていることが分かると思います。 holde(やさしい)は高い音で、grauen Stunden(灰色の時)は低い音、どこをみてもこの関係は保たれていて、かえってこのことがこの曲を歌うことを難しくしています。中間域が一番歌いや すいのですが、この曲ではなかなか中間域に音がとどまってくれずに、すぐに上か下に離れて行ってしまいます。広い音域をうまく歌いこなせるテクニックがな いと歌いこなすことが難しい曲です。さらに後半は長い半音階を生かすことと、現実を超えた世界の表現の為にとても長いフレーズが使われています。ブレスコ ントロールも難しくなっています。さらに、1番の歌詞にはぴったりと寄り添って書かれていますが、2番の歌詞はそうはいきません。1番では低い音で辛い状 況を歌えば良かったのに、2番では正反対の内容を低い音で書かれています。

初稿と決定稿の違い

 初稿では2分の2拍子でEtwas bewegtだったということから、シューベルトは最初この曲はやや速いイメージがあったのではないかと思います。おそらく、速いテンポではこの内的な音楽の表現がうまくいかなかったので、Mäßigに変えられたのではないでしょうか、しかしそれでも決して遅いテンポではありません。
 また5小節目の装飾音も初稿ではありませんでした。これも内的な音楽の表現の為だと思われます。2番の歌詞で考えると、Seufzer(ためいき)のところに来るとちょうど良いところですが、なかなかうまくいきません。
 このような曲ですので、演奏によってとてもすばらしい作品に感じられることもあるし、逆にやや残念な作品に感じられることもあります。この曲を取り上げるときはこのような問題をどう解決していくかが大切だと思います。
 最後に私のところにあるこの曲の録音は実にさまざまなテンポのものがありました。
 2分40秒から3分弱の演奏が一番多かったのですが、中には4分近いものもありました。もともとの曲の発想であるやや動きの感じられるテンポと、内的な表現をする為に遅くなってしまうものをどう折り合いをつけていくかも大切なポイントだと思います。

テンポを見つけることがとても難しい曲です。実際に2拍子と4拍子の違いを歌い比べて、最終的にシューベルトが選んだ4拍子のテンポを探してみるもの一つの方法だと思います。

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