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L’lutima canzone(Tosti)~イタリア歌曲10

表現の基礎は変化

 表現の基本に変化があります。強弱の変化、テンポの変化、音色の変化など。変化が基本にあるので、変化しないことも逆に意味を持ってきて、とても深刻な時間が止まったように感じられるシーンでは逆にほとんど変化しないような表現も使われます。しかしとにかく表現は変化を抜きには語れません。今回はトスティのL’lutima canzone(最後の歌)を使って表現について見てみます。

同主調への転調

 変化といいながら変化の少ない曲を取り上げました。全音の楽譜で7ページですので、歌曲としては長いですが、1番2番のある曲(有節歌曲)で、覚えやすい曲です。短調の前半部分と同主長調(同主長調への転調ですので♯が3つ増える変化をします。全音の楽譜だと♭1つのニ短調から♯2つのニ長調への転調です。)の後半部分の2つの部分で出来ています。調性は変わりますが、最初から裏拍の伴奏が続いており、転調しても変わりません。大きな変化としては同主調への転調ですが、そのほかはあまり変化のない、それでいてある程度の長さのある曲での表現を変化を中心に考えていきます。

前奏

 まずは10小節のピアノの前奏から始まります。最初のフレーズは4小節、次は2小節、最後のフレーズが4小節の構造です。各小節の最初の音がレ、ド♯、シ、ラと下降していきます。デクレッシェンドするのが普通です。そのため最初pになっていますが、4小節かけて小さくしていける強さは必要です。全音の楽譜で3小節目にクレッシェンドが書いてありますが、音楽としては不自然です。もしこれを生かすのであれば、特別な理由が必要です。 無くても良いようにも思います。 さらに2番の間奏で同じ音楽が出てきますが、ここではクレッシェンドは書いてありません。もう一度校正して出版する機会があれば無くなっていたのではないでしょうか。ちなみに冒頭のpはだんだん小さく出来る強さで始まるためにはmpの方が良いとも考えられるかもしれませんが、前奏全体としてpのイメージということになります。だんだんデクレッシェンドしていくわけですので、全体的に静けさを感じるpで問題ありません。mpと書いてしまうと曲のイメージがかえってぼやけてしまいます。

 5小節目から最初と同じような下降型のフレーズが今度は2小節に短くなって出てきます。その後今までと全く違う4小節のフレーズが続きます。違う楽器が使われるような変化が必要になります。4,2,4がそれぞれの性格を持ち、またそれぞれが新しく始まるように演奏されることが大切になります。これが変化です。4,2,4の塊がはっきりしなかったり、それぞれのキャラクターが生きていなければ、演奏はつまらないものになってしまいます。

細かな変化

 ここで歌が始まります。前奏と逆に2小節、2小節、4小節のフレーズです。最初が一番高くだんだん低くなっていきますので、全体を通してデクレッシェンドしていく音楽になります。前奏と逆に最初が短く最後が長いフレーズになっているのも作曲家が与えてくれた変化です。さらに最後のフレーズ(15小節目から)を見てみます。各小節のピークの音が2拍目、3拍目、最後は細かい音に変わって2拍目と変化させられていることが分かります。短い間奏の後また最初のような音楽が始まります。後半は特に音列に変化が起こります。イ長調に一時転調します。冒頭のニ短調が発展する時に♭が1つ減るイ短調に転調することが多いのですが、その同主長調に当たります。特殊な転調ではありません。しかしニ短調のまま終わるのとイ長調で終わるのとでは音色が違う必要があります。これも変化です。

楽譜が少しおかしいところ

 このあと少し問題があります。33小節目付近にa tempo(元の速さで)が書かれています。そのためには当然その前にテンポが変わっていなければならないのですが、rit.もaccel.もありません。本当はこのままでは楽譜は完成ではありません。accel.はこの場合あり得ないでしょうから、rit.を書かなくてはなりません。明らかにミスです。いくつかの可能性が考えられ、直前の31小節目から遅くする、もしくはその前の29小節目から、さらにもう一つ27小節目あたりから遅くする。通常この3通りが考えられそうです。全く違う演奏になりますので、作曲家は明記すべきです。ピアニストの立場でこの楽譜を見ると、rit.がない以上27小節目で遅くすることは通常考えません。29小節目と31小節目は上行型のメロディーが出てきますので、遅くよりも少し速く演奏することを考えてしまいます。それなのにその後a tempoが目に飛び込んでくることになります。歌い手がここからリタルダンドをかけてくださいと指示しなければなりません。YouTubeでいくつか聞き比べてみたところ、27小節目が一番多くありました。しかし、それぞれの解釈があっても良いと思います。

 長くなってしまいますので、前半だけで終わりにします。大きな変化のある曲ではありませんが、あちこちに変化させられる要素があることが分かると思います。それらの変化をつかみそれぞれをどのように演奏していくのかが、表現の第一歩になります。また、演奏の際に作曲家の意図を感じることのの重要性がよく言われますが、それは音符に一番表れます。この楽譜にもいくつかの強弱記号、テンポ記号のミスがありました。音符よりも強弱記号を守ろうとするのは逆に作曲家を無視しているようにも思えます。音から作曲家が何を書こうとしたのかを読み取り、その演奏法は演奏家の方がプロフェッショナルである必要があるように思います。

曲の分析(イタリアの歌曲)~記事のまとめ

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