転調は自由です。遠い調に転調すると違和感が大きくなりますので、違和感がほしい時にはそうすれば良く、逆に自然な転調にしたい場合には近い調に転調します。ここでは近い調に転調するいくつかのパターンを書いてみます。
- 転調は相対的なものですので、何調になったかというよりも、元の調に対してどのような変化をしたかが重要になってきます。ト長調に変化した場合、ハ長調からト長調になったのか、ニ長調からト長調になったのかのような元の調との関係性の方が大切です。先ほどの2つの転調は全く違う転調ですが、ハ長調からト長調とニ長調からイ長調は同じ転調です。(5度高い調への転調、属調転調といいます)
- 一番良く使われる属調転調、5度高い調への転調(シャープを1つ増やす転調)を例としてあげてみます。ハ長調(主音ド)からト長調(主音ソ)のような転調です。これはホ長調(主音ミ)からロ長調(主音シ)への転調、変ホ長調(主音ミ♭)から変ロ長調(主音シ♭)と同じものだと考えます。(ドレミファソ、ミファソラシのように数えて、5番目の音に主音を変えます)
- ♯が一つ増えるということは♭が1つ減ることと同じ意味だと考えます。属調転調は長調の場合音階の音の主音から数えて4番目の音1つだけが半音上げられることになります。ハ長調の場合はファです。ニ長調の場合はソです。♭形の調の場合はこの4番目の音には必ず♭がついていますので、半音上げるためにはフラットを1つ減らすことになります。このようなことからシャープを1つ増やすこととフラットを1つ減らすことは同じことだと考えます。
重複しますが、例を少し挙げておきます。
- ♯が1つ増える場合。
ニ長調(♯2つの調)は、イ長調(♯3つの調)になります。
変ロ長調(♭2つの調)は、ヘ長調(♭1つの調)になります。 - ♭が1つ増える場合。
ニ長調(♯2つの調)は、ト長調(♯1つの調)になります。
変ロ長調(♭2つの調)は、変ホ長調(♭3つの調)になります。
一番良く使われる転調です。長調の場合主音から4番目の音が半音上げられます。移動ド読みしたファの音に当たります。音楽はより生き生きと発展したように聞こえます。音楽を山場に向かって緊張が増すようにしたい時に好都合です。例えば♭4つの長調、変イ長調の場合第4音はレ♭です。レが♮になる音が続いていれば属調転調(変ホ長調)の可能性があります。そこでは音楽がより発展したように感じられ、より高い音が使われたり、場合によっては少し速くなったりします。
詩は作者が何を感じて言葉を選んだのかが分かる部分も多いと思いますが、音楽になると謎が多いと思うものではないでしょうか。しかし、属調転調と音楽の高揚感が一致して見えると、作曲家の頭の中に少し近づくことが出来るように思います。音楽解釈というものは、ここで属調転調していると分かることではなく、なぜ属調転調を選んだのかというところにあります。転調を把握することは作曲家の頭の中に入っていくような作業だと思います。
短調は少しややこしいです。6番目の音が半音上げられることになりますが、短調の性質上7番目の音がほとんどの場合半音上げられますので、自然に聞こえるように6番目の音も半音上げられることがあります。この場合は転調ではありませんので、判断が難しくなるかもしれません。慣れるまでは長調に限定して属調転調は見てみると良いように思います。
属調転調と反対に音楽を落ち着けたい時に使われる転調です。主音から7番目の音が半音下げられます。移動読みしたシの音に当たります。ドキドキするような効果ではなく落ち着き、より深く感じる効果もあります。属調転調と対象に音程が少し低くなったり、少し小さい音になったりすることが多いです。♯1つのト長調の場合ファに♯がつきますが、これが♮になることが多くなったら、下属調転調の可能性があります。
短調の場合は第2音ということになりますが、これも転調ではなく、ナポリの和音が使われていることもありますので、少し判断が難しくなります。まずは長調から慣れていった方が良いでしょう。
同じ主音で長調から短調、または短調から長調に変化する転調です。ハ長調とハ短調、ト長調とト短調のように。この場合長調から短調への変化は♭が3つつきます。短調から長調へは♯が3つつきます。3つの変化ですので、楽譜上臨時記号がたくさんついたように見えますし、例えば♭3つの変ホ長調が短調になると、♭6つの変ホ短調になります。最後の♭はドです。ファ以外はすべて♭となり、とても難しい楽譜に見えるかもしれませんが、変ホ長調がそのまま短調になっただけです。ドの♭と書くより、シと書いてくれた方が良いのにと思うこともあるかもしれませんが、そうなると調性が分からなくなってしまうので、ドの♭でなくてはなりません。
見た目急に♯や♭が増えますので、びっくりするかもしれませんが、単純に短調長調の変化が起こっただけです。この転調はとても効果的です。急に色が変わりますので、分かりやすいと思います。全く同じ言葉で音型も同じなのに1回目は長調、繰り返しの2回目は短調ということもあります。同じ言葉なのに1回目には希望を感じ、2回目は諦めを感じるなどという時にもこのような転調は使われます。作曲家の頭の中はまさにこのままで、同じ言葉なのに2面性を感じることを繰り返しにして同主調に転調することにより、両方の表現をしたのです。
この転調は第3,6,7音が変化しますが、第7音は短調の場合半音高い音が使われることが多いので、第3音と第6音が鍵だと思った方が良いです。ハ長調の場合はミ、ラ、シがフラットになるのですが、ミとラで判断をします。
この転調も長調と短調の転調ですが、調号が変わらない転調です。例えばは調号がつかないハ長調の場合同じように調号がつかない調はイ短調になります。このハ長調からイ短調、逆にイ短調からハ長調への転調を平行調転調といいます。長調と短調が入れ替わるとても大きな変化ですが、調号が変わらないためにどこで変化したのかが分かりにくい転調です。
この転調の見分け方ですが、長調から短調の場合第5音に♯が頻繁についているようだと平行調に転調した可能性が高くなります。短調から長調の場合は、今まで第7音を半上げていたのに、それをしなくなったら長調に転調した可能性が高くなります。
主な転調はこれですべてですが、もう一つ挙げておきます。クラッシックではなかなか見かけない転調ですが、ポピュラー音楽ではとても頻繁に見られる転調です。サビの部分を一通り歌い終わったあとに、全く同じメロディーを長2度上げて歌う転調です。盛り上がるところでよく使われます。♯が2つ増える転調です。ニ長調だとホ長調に変わります。クラッシックの曲になかったか考えてみたのですが、全く思いつきません。クラッシックでも最後に向かってもっと盛り上げようとする作曲のされ方はありますが、同じ音楽で2度上げるということには少し抵抗があるのだと思います。
カテゴリー一覧