音域も広がり、ある程度の音量も出せるようになり、発声においては上達してきたのに、歌を歌うとなかなか表情が伝わらない。もしくは心を込めて歌っているのに、表情がないといわれてしまう、といった経験のある人も多いかと思います。レッスンではもっと心を込めてとか、詩を読み込んでとか、集中して等の指導があります。たとえば愛がテーマの曲の場合、「君は恋愛の経験が無いから表情が出ないんだよ」などいわれてしまうこともあるようです。全くそんなことはありません。大切なのは想像する力です。
しかし、ここでは違う方向から考えてみます。表現の基礎は変化です。わざと表情が無いように歌おうとしたときに、変化のないロボットのような歌を思いつきます。強弱をつけずに、音色も変えずに、もしかすると最小限しか口も開けずに顔の表情も変えずにといった感じでしょうか。
また逆に、表情をつけようと変化をつけすぎて、わざとらしい、くどい演奏も考えられます。声も汚くなり、テンポや音程も壊れていきます。こうなると変化をつけないのも良くないし、つけすぎるのも良くない。つまりほどよい中間を探ることになりそうですが、あえて、表現の基礎は変化をつけることだと考えてみます。
たとえば曲の最後に向けてだんだんと緊迫していくものを歌うとします。フィギュアスケートなどでもよく使われる、トゥーランドットの「誰も寝てはならぬ (Nessun dorma)」もこのタイプの曲です。
最初から強弱の幅をたくさんつけてしまうと、最後のVincerò!の最高音(H)が他よりも大きな音にならなくなってしまいます。最初の部分も最後の部分も同じ量の強弱をつけてしまうと、結局は最初の部分と最後の部分では変化がなくなってしまいます。
穏やかなシーンでは穏やかな雰囲気の中での変化を探し、激しいシーンでは激しさが伝わる幅の変化が必要になります。これは最初は変化をつけず、最後のシーンで変化をつけるということではないというのも重要なことだと思います。
変化について、また次回少し考えてみたいと思います。
カテゴリー一覧