シューマンの歌曲集「ミルテ」の中の1曲で、
2ページほどで終わる短い曲です。
今回はこの曲を和音の移り変わりを中心に見ていきます。
できるだけ基礎的なことも含めて書いていこうと思いますので、
是非楽譜を見ながら読んでみてください。
これが理解できるだけで、
和声分析の基礎が分かるのではないかと思います。
経験のない方には少し難しいです。

原調では♯3つの調です。
一番右の♯がソの音なので、
これをシに読み替えてドにあたる音がラ、
ラにあたる音がファ♯です。
よってラの長調(イ長調、A dur)もしくはファ♯の短調(嬰ヘ長調、Fis moll)のどちらかになります。
最初の音では分かりませんので最後を見ます。
ラ、ド♯、ミの和音なので、イ長調決定です。

最初の和音はラ♯、ド♯、ミ、ソの和音で、
すべて短3度の間隔で並んでいます。
これは減7の和音と特別な名前がつけられています。
古典的な音楽では一番緊張感が強い和音です。
ラ♯がイ長調では考えられませんので、
イ長調がはっきりするところから見ていきます。
3小節目でラ、ド♯、ミの主和音が出てきます。
ここから一つずつ戻りながら考えていきます。
2小節目の2拍目はミ、ソ♯、シ、レの和音、
つまりイ長調の5度の和音
(主音のラから上に数えていって5番目の音がミなので5度の和音といいます)
で5度から主和音(1度の和音)が一番よく使われる和声の形が見られます。
その一つ前はシ、レ、ファ♯の和音イ長調の2度の和音で2度5度1度の和音も典型的な和声の進行です。
そして問題の最初の和音ですが、2度の和音シ、レ、ファ♯が短3和音(短調の和音)になります。
そしてこの和音に向かう5度の和音を9度まで並べるとファ♯、ラ♯、ド♯、ミ、ソになります。
この和音の根音ファ♯をカットしたのがこの最初の減7の和音です。
2度調に向かう5度の和音なので2度5度と呼ばれています。
ややこしいですが、
減7というとても強い和音から始まり、
3小節目に向かってきれいにイ長調に安定する流れです。

3小節目にミ♯が出てきますが、
半音階の途中の音なので、
和声的に意味を持つ可能性は低いです。
4小節目はド♯、ミ、ソ♯でイ長調で考えると3度の和音になります。
この3度の和音に向かう5度の和音(3度5度)が
ソ♯、シ♯、レ♯、ファ♯(♯だらけで目眩がしそうですが)で、
これが4小節目の2拍目の和音です。
その後5小節目でまた3度の和音に戻ります。
3度の和音はあまり重要な使われ方はしませんが、
多用されてしまうと調性がふらついていきます。
ちなみに主和音(ラ、ド♯、ミ)と3度の和音(ド♯、ミ、ソ♯)を比べると、
2つの音が同じで、残り一つがソ♯とラの半音だけの違いになります。
主和音の変形のような役割が多いです。
ただし短3和音になりますので、
この場合この色合いが大切だったのかと思われます。

その後冒頭の和音が戻ってきます。
しかし、最初は一番高い声部がミ、レ、ソ♯、ラだったのが、
ド♯、シ、ソ、ラに変えられています。
冒頭の方が緊張感が高いことが分かります。
歌は同じ音を歌いますが、
この違いを感じる感性も必要です。
その後は少しややこしい動きをたどりながら9小節目で5度の和音に落ち着きます。
難しいので興味のある人のために7小節目の後半からの動きを書きます。
6度、6度5度、6度、5度、5度5度の5度、5度,5度5度、5度の流れです。
5度調(ミ、ソ♯、シが主和音)に一時転調したと考えても良いです。
そうすると、2度、2度5度、2度、1度、5度5度、1度、5度、1度となります。
10小節目でイ長調の主和音に戻りますが、
ピアノの右手の音だけだと5度の和音です。
珍しい和音の使い方ですが、
ベースのラの音(主音)が5小節も続く安定感と、
5度の不安定感が、動きがある音楽なのにどんどん進むわけではない独特な色合いになっています。
14小節目からは右手だけ4度上がって、主和音に7度上の音を加えた和音が使われています。
その後17小節まで5度の和音に落ち着きます。
ここに向かう動きもややこしいので、
興味のある方用に書いておきます。
15小節目の2拍目4度、1拍目は左手は4度、右手は4度5度、次は5度5度の5度、
16小節目で5度5度、5度5度の第5音の下方変位、17小節目で5度になります。

その後は今までの繰り返しが続きます。
29小節目で冒頭と同じ和音で始まりますが、
一番高い音が使われ、
さらにファ♯、ソ♯、ラ、ド♯と今までになかった上行型が使われているのにも注目したいところです。
29小節目の2拍目は2度の属9の根音省略形、
30小節目2度までは冒頭と同じで、
その後2拍目に平行短調の5度の和音6度5度が使われ、
31小節目で6度の和音に落ち着き、
それから2拍目再び2度5度の根音省略形、
32小節目2度、5度、33小節目で主和音にたどり着きます。
後奏は特別なことはなく、5度1度の繰り返しで終わっていきます。

この曲の音構造はこんなものです。
はっきりとした転調はありません。
つまり最初に現れた劇が違うものに移り変わっていく
(発展したり、絶望したり、とにかく劇が進んでいくような)のではなく、
最初の感情をいろいろな角度から見ていくといったものに感じられます。
しかし決して単純な主和音を中心としただけの音楽ではなく、
2度、3度、4度、5度、6度のそれぞれの和音の色合いを渡り歩きながら、
最初にあった一つの状況を様々な色で描いている曲だといえるでしょう。
ちなみに7度の和音だけありませんが、
これは例外なく属7の和音(5度の和音の第7音までの和音、イ長調の場合、ミ、ソ♯、シ、レ)の
根音省略形(ソ♯、シ、レ)になるからです。
さらに普通は和音の根音は省略しませんが、
5度の和音では第3音や第7音の方が大事な音になりますので、
その代わりに根音は省略できる音になります。
イ長調の場合、第3音ソ♯がラにいく動き、第7音レがド♯にいく動きの方が大事だからです。
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