協和音、不協和音という言葉を初めて知ったのは中学生の頃でした。吹奏楽部で初めてトランペットを吹き始めた頃で、少しずつ音楽に興味を持ち始めていったときです。楽器店の音楽書のコーナーに立ち寄り、分からないながら音楽書を立ち読みをするのが好きで、そこで初めて協和音、不協和音という言葉を見かけました。その言葉のイメージからすべての音楽を協和音だけで作れば良いのにと思ったことを覚えています。もちろんそんなことはないのですが。
少し数学的な話を入れます。難しいと思われる方は読み飛ばしても結構ですし、しっかり理解されなくとも、なんとなく目を通していただけるとなお良いかもしれません。協和音は完全4度、5度、8度の他に、長短の3度、6度の音程だけで作られる和音を指します。4度と5度は裏返しの音程です。ドとソは5度ですが、ソとドは4度です。また3度と6度もそうで、ドとミは3度ですが、ミとドは6度です。そして協和するかしないかの判断は、それぞれの音の周波数が単純な整数比で表されるものとされています。とても曖昧です。完全8度は1:2の振動数の比で出来ます。440Hzに対して完全8度上の音は880Hzです。完全5度の場合は2:3です。440Hzに対して660Hzになりますが、平均律で調律すると659.25Hzと少しだけ低くなります。さらに長3度は4:5の振動数のの比になりますので、550Hzさらに平均律の場合554.37Hzになります。差が4Hzほどになってしまいます。増減の音程を無視すると残りは2度と7度になります。そして長2度の音程の周波数比は8:9です。これも440Hzを基準に計算すると495Hz、平均律では493.88Hzです。
協和音と不協和音の区別は単純な整数比の振動数のみで出来ている和音ということですが、それが4:5までで、8:9は違うという基準(さらに短3度の場合は5:6ですので5:6は協和する。8:9は協和しないといった基準になります))がとても曖昧で、言葉で表すと、中学生の私が感じたように、美しい和音と汚い和音のようにも思われそうですが、その線引きはとても曖昧です。
もう一つ大きな問題があって、不協和音は果たして汚い和音なのかどうかということです。長2度の音程関係であるファとソの音を同時に弾いてみます。その後ファの音をミの音に替えて短3度ミソにしてみるとホッとする感じが分かります。ファソは不協和な音で、ミソは協和する音となります。ファソが汚い音だとしたら、あまり目立たないように演奏された方が良さそうですが、ファソを強く、ミソを弱く演奏した方がしっくりきます。これは汚い、きれいの関係ではなく、緊張感の変化といった方が良いでしょう。つまり不協和音と協和音の関係は緊張感の強い和音と弱い和音の差だということ、さらに大切な音をどちらに当てはめるかというと、絶対に緊張の高い和音に入れます。
結論。協和音、不協和音はきれい汚いの関係ではなく、緊張感の違いで、さらに大切な音ほど緊張感の強い和音で表現されることが多いので、不協和音をしっかり緊張感が伝わる演奏をすることで、表情豊かな演奏になる可能性があるということ。さらに協和音、不協和音の線引きは楽典的にははっきりしていますが、その基準は絶対にそうでなくてはというほどの理由はないこと。さらに協和音同士でも、不協和音同士でも、緊張感の差は出てきます。例えば、ハ長調でドミソの和音とソシレの和音は同じ長3和音で協和音ですが、明らかにソシレの方が緊張感の高い和音になります。また、先ほどのファソの音を一定の回数弾き続けてみると、だんだん緊張感は薄れていきます。逆にソナタの展開部の最後には属7の和音が数小節連続して使われ、緊張感をどんどん高めて再現部への期待を強めることもあります。これは常に思うことですが、分類は便利ですが、それに縛られると、間違った結論にいきやすい。自分で感じること考えることが大切になります。
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