頭声、中声、胸声といった声区の分類が一般的になっています。このネーミングである必要は無く、上中下でも良かったし、1,2,3でも良かったのですが、今のところこの名前がよく使われています。名前を付けることの良さもありますが、悪い面もありますので、よく考える必要があります。
名前が付けられたのは理由があります。割と納得いくところだと思いますが、高い声は頭に響いて感じられ、低い声は胸の響きを感じられます。何の問題もなさそうですが、頭声では頭に響かせなければならない、胸声は胸に響かせなければならないとなると、少し違ってきます。その証拠に、広い音域の声が獲得できた人は、頭に声を響かせようとか胸に響かせようとか考えることはありません。
どうでも良いことのようにも感じられますが、実際頭に響かせようと一生懸命練習しているのに、あまり上手くいかないと思う人も多いのではないかと思います。頭に響かせるから頭声になるのではなく、高い音が楽に出せるようになってくると、いつもよりも頭の方に響いてくるだけなのです。もちろん頭に響かせようとして良い頭声が見つかることもあり得ますが、上手くいかないことも多々ありますので、その例を挙げてみます。
頭声は頭に、胸声は胸に響くというのを逆に考えると、頭声は胸には響かず、胸声は頭には響かないという風にも捉えられます。そのため頭に響かせようとしたらすぐに頭声が出せた人は問題が無いのですが、なかなか上手くいかない人は、もっと頭に音を集めなければ、胸を使わないようにしなければと思ってしまうかもしれません。結果とても堅く広がりのない、変化に乏しい窮屈な音になることもあります。良い頭声は胸の筋肉も十分に使うし、良い胸声はしっかりと頭の響きも使います。名前があることがこれらを排除することにもつながっていくこともあるのです。
声帯を薄くのばしていくと結果的に音のポジションが額の方に上がっていくように感じられます。これが頭声の正体なので、練習すべきなのは声帯の伸展だけなのです。逆にそのまま音を下げていくとだんだん小さな音になってしまいます。しっかりとした低い音を出すためには、声帯を少し厚くしていかなければなりません。そうすると声の振動が少し胸に響いてきます。この状態が胸声です。
さらに頭声の練習では頭に響きがあるだけではなく、そこに向かって音を集めようと思うことがあるかもしれません。しかし、音を集めるということは声帯をより閉めることになります。閉鎖が強くても声帯の伸展筋をしっかり使うことは出来るのですが、難しくなります。集めようとするあまり、十分な伸展が出来ないことになりますので、本当は閉鎖は後回しにして、伸展だけに注目をした方が良いのです。十分に伸展が出来てからこれを壊さないようにして音を強く出していくとしっかりと閉鎖された頭声が獲得でします。これがアクートです。ベルカントではアクートを使ってはいなかったが、今では必要だといった意見を聞いたこともありますが、閉鎖の強い高音を使っていなかったなどは考えられません。しかし、当時と今では、オーケストラの人数もホールの広さも違いますので、今の方がより大きな声になっているのは確かだと思います。でもアクートはアクートです。
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