伴奏合わせは難しい1の続きです。違和感のあるところだけの練習で大丈夫だろうかと思うかもしれませんが、一カ所しっくりくる音楽になったら、他の部分も変わってきます。最初にテンポが完全に満足できるように決まることはあまりないと書きましたが、このような部分練習からしっくりくる音楽が見つかったら、徐々に二人のテンポが仕上がっていきます。これはメトロノームで四分音符いくつといったテンポ感ではないので、場所が変わったり、二人の気持ちが変わったらそれに合わせて変化していきます。たまに私はこの曲を四分音符72のテンポで歌いますので、それに合わせて弾いてください。といった要求をする歌い手もいるようです。これはピアニストにとってはとても窮屈なことです。頻繁にメトロノームで確認しつつ、その枠内での演奏を強いられてしまいます。大抵このような要求をする人に限って、今の演奏は72ではないのでもっと速くとか遅くとかいったりするものですが、結局72では無いテンポで落ち着いたりします。生きたテンポは機械的なテンポではないのです。
少し話がそれてきました。違和感のあるところに集中した練習に戻ります。フルトヴェングラーがベルリンフィルとでおこなったシューベルトの未完成シンフォニーのリハーサル録音が残っているのですが、冒頭の弦楽器の伴奏の音楽にオーボエ、クラリネットが旋律を演奏する部分だけを割と長く時間を使って練習していました。同じように時間をすべての場所で使っていったら、ものすごく長い時間が必要になります。最初の部分のリハーサルしか残っていなかったのですが、おそらく他の部分はもっと短い時間で進んでいったと思います。大まかな練習内容は極力クレッシェンドを遅く始めるといったものでした。これを徹底的にやることによって、曲の全体像をオケの全員で共有できるのです。一カ所音楽を作り上げるということは一カ所のためだけではなく、全体を作り上げることにつながっていきます。ミクロな視点がマクロを作り、またマクロな視点がミクロを作るような練習をしたいものです。
慣れたピアニストに弾いてもらえる時は、リードしてもらって良いと思いますが、いつも受け身で待っているというのも良くありません。どのような音楽にしたいのか全く伝わらないこともあります。といってもこうしてくださいという事も言いにくいときは、質問するのが一番良いかと思います。これも違和感ですが、例えば自分が思っていたよりも速かった場合、もう少し遅いイメージで歌っていたのですが、どう思いますか?といった具合に。優れた演奏家であれば遅いのも良いかもしれません。一度やってみましょう。とか、実はこういう理由で速く演奏してみたのですが、どう思いますか?といった返事をくれるかもしれません。一人で練習していたときには気づかなかった発見が出来るチャンスです。場合によってはこの長いフレーズがどうしても苦しくなってしまうのですが、何か良い方法無いでしょうか?と聞いてみるのも良いかもしれません。基本的には長いフレーズの前のブレスの感じと、長いフレーズのテンポの揺れと音質でクリアできる可能性もあります。伴奏に慣れたピアニストはそのような方法もたくさん持っていることがあります。優れたピアニストと演奏できるのは貴重な時間になります。大切にしてください。
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