最初の発声の目標になるものがいくつかあります。まずは音域、とりあえず高い音がどのくらい出せるかということ、次は音量、無理のない大きな声が出せること、そして次に来るのが息の長さでしょう。一息で長いフレーズが歌えるようにというのも大きな目標になります。そのためにはたくさん息を吸う必要がありそうですが、今回はこのことについて考えてみます。
声は閉じた声帯から息を出すことにより、声帯は開いたり閉じたりの繰り返しをし、その時に音が生まれますので、当然息がなくなったら、素晴らしい声帯を持っていても全く声は出ません。ということは長いフレーズを歌うためにはたくさん息を吸うことが一番大切なことに思えるのですが、少し疑問があります。
お腹が膨らむように息を吸うことが正しい呼吸法だという考え方をなくそう~呼吸法24
作曲家が曲を作る時に声や楽器が最大のパフォーマンスを発揮できるように書いていきます。例えばクラリネットは4オクターブに近い広い音域が使え、さらに低い音と高い音の音質の違いが大きく、両方ともとても表現力のある音質ですので、曲は広い音域に渡り、低音を聞かせるシーンも高音を聞かせるシーンも、またそれらを行ったり来たりするシーンも出てきます。もし高音はとても素晴らしいけれども低音はあまり音量がなかった場合は、出せるとしても低音はあまり使われなくなります。テノールとソプラノは似たような音域なのですが、テノールの場合はハイCを超える音はほぼ使われないのに対して、ソプラノはそれを超える音が割と頻繁に出てきます。また、歌曲の場合ソプラノであっても高いラの音を超える音は極端に少なくなります。それよりも最高音はソまでという方がとても多いです。これはソの音を超える高音は音色を自在にコントロールしづらくなることが理由です。オペラの場合は音色の変化よりも極限の精神状態をドラマとして表現することが優先されることがありますので、さらに高い音を使うことになります。
フレーズの長さも作曲家は無理の無いように書いていきます。そうすると不思議なことが見つかります。男性と女性では肺活量が違います。そうすると男声の歌うフレーズは女性のそれよりも少し長めに書かれたり、もしくは女性の歌う歌は極力長いフレーズにならないように作曲されるはずですが、実際は全く違いはなく、同じ長さで作曲されます。これはある程度しっかりと息を吸うことは必要ですが、それ以上に吸うよりも、吸った息を効率よく音にすることが大切だということを意味します。息が動かないと声は出ませんが、ほんの少し動いただけで声になります。長いフレーズを歌うためにはたくさん息を吸う練習よりも、少しの息を一定に長く吐く練習をすることが効果的です。
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