最近ミックスボイスという言葉が使われるようで、時々質問を受けます。クラッシックのヴォイストレーナーが使っているのは聞いたことがありません。どちらかというとポップスの世界から出てきた言葉のようです。どの声をミックスボイスといっているのか正確なところは分かりませんが、ミックスボイスについて開設してあるサイトなどを見てみると、2つの違う使われ方がありました。
- 胸声と頭声の混ざった音。
- 頭声とファルセットの混ざった音。
1の場合は声を頭声、中声、胸声と分けた場合の中声に当たります。五線内に収まるような一番出しやすい音域の声ということで、普通の声で特別な練習の必要な声ではありません。もちろん他の声区と同じように中声も良い音になるように練習するものですが、通常の発声練習ですので、特別な用語を付ける意味は全くありません。
そうなると2を指していると考えた方が良いかと思います。ミックスという言葉から2つの違ったものを混ぜ合わせるということだと思います。AとBを混ぜ合わせることにより、新しいCを作り出すようなイメージです。こうなると言葉としてははっきり意味のあるものになります。そして新しいCができた時とできない時が明確に分かります。しかし、変なことがあります。頭声とファルセットはAとBのように違うものではなく、声帯の閉鎖が強ければ頭声、弱ければファルセットという関係です。AとBではなく、同じAで濃いAと薄いAのような関係です。理屈っぽくなってしまいましたが、ミックスなどできないのです。ほど良い濃さのAにしかなりません。
新しい用語が生まれると、それさえ出来れば今とは全く違った世界が広がるかもしれないと考えやすいように思います。しかし大抵今まであったものに新しい言葉が付けられただけが多く、またそれだけで天地が変わるような大きな変化にはならないことがほとんどだと思います。
では具体的に何をすれば良いかということになりますが、よく喉を開けた頭声を出そうという、通常の高い音の目標と同じものになります。特別な声ではなく、高い音を少し楽に出せるようにしていきましょう。といったことになります。ということで、ミックスボイスを獲得できた人とそうでない人に分かれるようなこともなければ、今までに無い新しい声でもありません。今までもあった声に新しい名前を付けただけだということです。
用語ができると、それが出来ているのか出来ていないかの分類が始まってしまいますが、簡単な二択ではないことがほとんどです。少し前では腹式呼吸がとても強調されていて、あなたは腹式呼吸が出来ていないとか、あの歌手は出来ているとかいないとか言われることも多くありました。腹式呼吸の定義自体がはっきりしないのですが、横隔膜を使った呼吸という意味で考えると、すべての人が常に腹式呼吸をしていますし、腹式呼吸を止めることは出来ません。横隔膜の動きと声帯の動きがしっかり連動していると、歌にとって良い呼吸になり、連動が弱いとまだ練習の必要な状態だというだけです。そして全く連動しない人もいません。
言葉はとても便利なものですが、曖昧な要素がとても多く、言葉が付けられることにより大きく間違ってしまうことも多々あります。難しいものです。
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