優れた声楽家が集まると、
基本的なことで問題を抱えている人はほぼいなくなります。
よく響く声を持ち、広い音域でむらなく自在な声が出せ、
どの一瞬をとっても音楽的な音がします。
大抵はそんなことはなく、
何かしら問題を抱えていることが多いものです。
素晴らしい高音があるのに、低音が響かなかったり、
しっかりとしたフォルテの音は出せるのに、ピアノが不安定だったり等、
基本的なことで問題のない人はなかなかいません。

そしてこの優れた声楽家たちの中でそれ以上に飛び抜ける人がいるのですが、
私の経験では決まって素晴らしいpp(ピアニッシモ=弱音)を持っています。
きれいに楽に聞こえるだけではなく、響きの悪い部屋でも十分に響き、
それでいてとても静かで、とてもしっかりとした緊張感にあふれています。
良く響くのに静かというのは変なことです。
大きいのに小さい音といっているようなものです。
これはあり得ません。
結局この素晴らしいppはある程度の音量があるはずです。
しかし、本当にとても静かなのです。
静かに聞こえるのです。

ppで歌おうとすると、できるだけ力を抜いてそっと歌おうとしがちですが、
そうすると声帯の閉鎖が弱くなり、息漏れの多い音になります。
こうなると声帯の振動もばらつきがでて、不安定な音になり、
音の緊張感もなくなり、
小さく出そうとしているにもかかわらず静けさもなくなってしまいます。
先ほどの「素晴らしいpp」とは正反対の音になってしまいますが、
小さく歌おうとする時に一番多い歌い方だと思います。

声帯が厚くふれ合っているとppにはなりません。
薄くする必要があります。
しかし薄くすると隙間が多くなり息漏れの音になってしまいます。
ppの難しさはここにあります。
ですので、歌の初心者は絶対にまずfの練習をすべきです。
では薄くした声帯が息漏れを起こさず、
しっかりと安定した音を作るためにはどうしたらよいかということになります。
これには横隔膜と声帯の連動が不可欠になります。
通常でも大切なことですが、ppではさらに重要です。
やり方は別のところで書いていますので、参考にしてみてください。
これが上手くいくと、声帯の縁は薄くしかふれ合っていないにもかかわらず、
緊張感を持ち、確実に閉鎖し続けます。
これによって、静かでよく響く、あり得ないはずの音ができあがるのです。
薄いのだけれども閉鎖はしっかりしていますので、
音量を測定するとそれなりにあるはずです。
しかし、本当にとても静かなのです。

繊細な音の練習は難しいです。
神経質になりすぎると歌いにくくなりますが、
諦めずに練習していかないと繊細な音楽は歌えないことになってしまいます。

横隔膜と声帯がしっかり連動しながら、
それでいて独立してコントロールされなければならないので、とても難しいテクニックです。
初期の歌のレッスンで、しっかり声を出すように練習は進みますが、
pなのだからもっと小さくと言われることが少ないのは、
これはもっと先のテクニックだと多くの先生が理解しているからです。
- 楽譜にpとあるのですが、
小さく歌わなくても良いのでしょうか? - pはより小さい方が良いのではなく、
pとしての存在感が大切です。
力のない抜けた音ではないので、
初歩のレッスンでは小さくしないで歌う方が多いです。
存在感のあるpが歌えるようになったら、
pも使っていきましょう。
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