口の中の上部の壁のやや奥にある部分を軟口蓋といいます。発声ではこの軟口蓋を持ち上げてと頻繁に言われます。そしてその理由として「軟口蓋を持ち上げると鼻腔が広がり、共鳴のためのスペースが大きくなってよく響く音になる」と続きます。しかしよく考えてみると変です。
1,鼻腔にとって軟口蓋は床に当たる場所です。軟口蓋を持ち上げることが出来たとしたら、床が上がってきますので、鼻腔は狭くなります。
2,共鳴は堅い部分に音がぶつかり反射することですので、スペースが広くなることは大切では無い。広くなって良いことがあるとすれば低い音の共鳴が強くなるということだけです。
3,軟口蓋には関節などありません。果たして持ち上げることなど出来るのでしょうか?
このようにつっ込みどころ満載の理論ですので、違う考え方が出てきます。今度は軟口蓋は下げるべきだといった考え方です。そうなると鼻腔は広がり、鼻腔共鳴が増え音が豊かになるということですが、スペースを広げることが共鳴を強くすることにつながるといったことからは抜け出せていないようです。どちらも論理的にはおかしなところが多いのですが、実際に歌っていくときに軟口蓋は持ち上げるように感じながら歌った方が良いのか下げようとして歌った方が良いのかは大きな問題となります。どちらも間違っているのでどちらがより正しいのかと考えても答えは出ません。しかしどちらを採用した方が良いのかは明らかです。絶対に軟口蓋は持ち上げられるように感じながら歌った方が良いです。理由は軟口蓋を持ち上げようと思いながら練習した人から優れた歌手がたくさん生まれているからです。
音をだんだん高くしていくときに声帯は徐々に薄くのばされる必要があります。この時音の響くポイントが鼻の付け根から徐々に額に向かって上がっていく感じがします。さらに余分な周波数の振動が少なくなり、整理された音になります。そしてこの整理された音、中心音がしっかりしてその他の周波数の音が少なくなると、より効率よく共鳴が起こります。その結果良く響くように感じるのです。
軟口蓋が上がるように声を出そうとすると声帯が伸ばされ、余分な振動が減り中心音の音程が多くなり、その結果共鳴が効果的に行われるということです。
鼻腔を共鳴のために広げなければならないといたら、軟口蓋を下げるというのは納得いくところですが、そうすると高音が出しにくくなるし、声帯の閉鎖も緩くなりますので、息っぽいモコモコした音になりやすくなります。古くから用いられている練習方法はその理由が間違っていたとしてもそれなりの意味があることもあります。しかしはっきりと間違った習慣だと分かったら、迷わず新しい方法を取り入れるべきで、なかなか難しいところです。
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