練習では母音で歌うことは頻繁に利用されます。とても役に立つ練習法なので、目的をしっかり把握して使っていきたいものです。いくつかのやり方と目的がありますので、少しまとめていきます。
まずはやり方です。ア、オ、ウのどれかがよく利用されます。アが一般的ですが、喉が開きやすいようにオを使ったり、少し声門の閉鎖は弱くなってしまいますが、もっと喉が良く開いたようにするためにはウを使うこともあります。さらに、母音から始めると音の始まりが難しいこともありますので、最初だけ、NやM等の子音を付けることもあります。つまり、Na---と伸ばしながら歌っていくということになります。
もう一つは歌詞の母音だけを取り出して歌う方法です。例えば、Caro mio benの歌詞を例に取ってみると、a o io eと歌っていく方法です。少し難しいですが、時々使われます。次に母音唱の目的を考えていきます。
- 音取りが難しいときに、言葉を考えずに歌えるようにするために母音唱は有効です。特に慣れていない言語の曲の場合にはとても楽に音取りが進んでいきます。
- 音取りは出来ているのになかなか音楽的な演奏にならないこともよくあると思います。その時に母音唱を利用すると、メロディーの緊張感の推移がわかりやすいので、表現を考えるきっかけになっていくことがあります。
- 母音の変化で発声のばらつきが大きいときに、母音唱をやってみることで、声帯の音程に対する変化が明確になり、ばらつきがなくなることもあります。
どの目的の時にどのスタイルの母音唱が良いのか(どの母音を使うかなど)はそれぞれです。しかし、しっかりと目的を持って、そのための練習だと自覚しながら練習を進めることは大切です。音取りなら音取りに集中する、音楽を作るためなら音楽の変化に集中する、母音を均等化させるなら母音の色に集中することが大切です。
最初に子音を付ける母音唱の例をNa---のようにと書きましたが、Na Na Na Naのようにそれぞれの音で子音を入れる練習も時々あるようですが、あまりおすすめできません。ただ、理解は出来ます。この方法は音取りの時だけ意味が出てきます。同じ音が続くときに母音唱だとリズムの変化は音には現れませんので、自分で感じるということになってしまいます。これがうまくいかないようでしたら、1音ずつNaを言い換えていくこともあると思います。しかし、母音唱の持つ一番の武器であるレガートの要素が薄れてしまいますので、よっぽど音取りに問題がある場合を除いては最初だけに子音を入れた方が良いと思います。音取りが目的ではないときには1音ずつに子音を入れるのは母音唱の意味が無くなりますので、子音は少ない方が良いでしょう。
先ほど書いた3つの目的で、初心者にとっては1番が特に重要なことになりますが、ある程度練習が進んだ方には2番の目的が一番多くなります。歌の表現といえば詩を良く感じることが必要だと思いがちだと思いますが、音そのものが持っている表情を逃してしまいことにもつながっていきます。母音唱を通して今まで気づかなかった音楽が見つかることも多々ありますので、是非試してみてください。
3番の目的のための練習もありますが、それほど有効ではありません。母音にばらつきがあるのは発声の基礎がまだしっかりしていないということですので、声帯の運動が正しくあるように、そしてそれを維持するための呼吸筋などの協力を確実にすることが何よりも大切です。母音は口の中の形で作られ、発声はもっと奥の声帯の状態で作られますので、正しく発声が出来ていれば、母音を変えても発声に影響はないはずです。コンクールや試験に向けての取り急ぎの練習にはなると思いますが、根本的に修正するためには基礎の発声をしっかり進めていくことにつきると思います。
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