ファルセットの練習の一例を書いてみます。女性はファルセットが明確ではないので、男性中心の練習です。しかしテノールの方だけではなく、低い声の人にも有効です。ファルセットになると急に声が変化しますので、通常の声と全く違う発声をしているように感じられたりもしますが、声区が切り替わるのと同じように、声帯の張力と厚さの変化だけで実声になったり、ファルセットになったりします。低い方から、胸声区、中声区、頭声区、ファルセットと移り変わると考えていきます。余談ですが、発声の本でファルセットは声帯では無く、仮声帯が振動すると書いてあるのを読んだことがありますが、絶対にそんなことはありません。ファルセットを日本語で仮声と書くので、仮声帯で発音されると結びつけたのだと思いますが、あまりにも安易に考えすぎです。
まずは良いファルセットにしようとは考えずに、とりあえず出してみてください。ごくまれにファルセットを出すことがとても難しい人もいるようです。ファルセットのコツは薄い声帯にすることですので、厚い声帯の声しか使ったことの無い人にとってはなかなかうまく出来ないこともあるでしょうが、必ず出来ますので、丹念に練習をしてみてください。また声帯の短い人で、頭声とファルセットの区別がよく分からない人もいます。その時は楽に出せる頭声といった感覚で十分です。
出せるようになったら、練習スタートです。まず声区の練習の原則をまとめてみます。
- 絶対に声区を分けなければならないということはありませんが、音域が狭いときには全部の声区を使えていないことが原因のことが多いですので、使っていなかった声区を開発することが可能性を広げることになるかもしれません。
- 大抵慣れている声区と慣れていない声区があります。慣れていない声区も慣れている声区と同じくらい使えることが目標の一つです。
- しかし、慣れていない声区の練習は最初とても声帯に負担がかかります。短い練習から徐々に練習時間を増やしていきます。
- もう一つ目標があって、それぞれの声区をできるだけなめらかに行き来できるようにしていきます。
- そのために声区を分けるときには変化させることが必要になりますが、次の段階では共通する部分を見つけて、ほんの少しの変化で声区の移動が出来るようにしていきます。
- 最終目標は十分な音域が歌えるように声区を開発して、さらに自分でもいつ声区が変わったか分からないくらいなめらかに声区間の移動が出来るようにすることです。
では練習の1例です。五線の真ん中のB(シ♭)から1オクターブ上のBを出して、また元のBの音に戻る練習をします。実声で始め、ファルセットになり、また実声に戻します。繰り返し練習して楽に出せるようにしていきます。楽に出せるようになってきたら、回数を増やして、速くできるようにします。この速くできるということがとても大切で、先ほど書いた5番に関係します。速く実声とファルセットを行き来するためには、共通する部分が安定して、ほんの少しの変化で移動できるということになります。
最後の練習はとても難しいのですが、ファルセットをできるだけフォルテで歌えるようにしていきます。その結果、ファルセットで始めてロングトーンしながら、だんだんクレッシェンドしてフォルテにし、また逆にデクレッシェンドしながらファルセットに戻ることが可能になります。messa di voce(メッサ・ディ・ヴォーチェ)と言われるテクニックで、最高音から最低音までこれが自在に出来るのが発声の目標とも言えるような練習です。
低い音でもだんだん小さくして聞こえるか聞こえないかというくらいの音になったときの声はファルセットと同じような状態です。高い音でないと名前としてはファルセットといいませんが、声帯の状態は同じです。ファルセットの練習はファルセットを使えるようにある練習のようであり、実は頭声を鍛える練習であり、ピアニッシモを歌うための練習でもあります。普段使わない声区を練習するということは、声の可能性を広げることになるのです。
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