前回英語と日本語のアクセントについて書きました。アクセントといいますが、比較的高低差で表現されています(もちろん強弱も多少あります)。前回書き忘れていましたが、高低差のアクセントであっても、音楽上は強拍にアクセントをそろえます。言語が高低差で表現されているのだから、音楽も高低差で十分に思えるかもしれませんが、西洋音楽の場合必ず拍子があり、強弱が頻繁に移り変わりますので、強拍にアクセントが来ないと変な感じに聞こえます。逆に拍子感の全くない音高だけの楽譜を書いたとしたら、強弱でアクセントを表現する言語であってもアクセントを音の高さで表現する必要があります。
さてでは他の言語を見てみます。まず対照的なのが、ドイツ語です。日本語や英語と違って、アクセントはより強弱で表現されます。例えば「ハロー」といった挨拶の言葉は英語同様ドイツ語でもよく使われます。英語では高めの声で「ハ」を発音することになりますが、ドイツ語ではそれほど高く出しません。しかしはっきりと強く発音します。英語を英語らしくしゃべるためにはアクセントをより高く発音すると良く、ドイツ語の場合はより強く発音します。高低のアクセントでも強弱のアクセントでも歌う時には同じように表現しますので、問題は無いのですが、朗読すると違いがはっきりします。さらに強弱のアクセントが大きくなると母音がゆがみやすいです。ドイツ語の曲を歌う時に母音が曖昧になる人は詩を読む時に強弱のアクセントを意識してみてください。クリアな母音になっていくと思います。
イタリア語は強弱と高低が混ざったようなアクセントで、少し特殊です。例えばボローニャ(Bologna)はローの部分にアクセントがあります。しかしたくさんのイタリア人はボを高く発音し、ローを長く(強く)発音しているようです。では音楽はどうするかというと、ローのところにアクセントが来るように作曲します。さらに辞書にローのアクセントは表記されますが、ボが高い等の表記はありません。つまりドイツ語に比べるとアクセントが曖昧なのです。ですので、言葉のアクセントと音楽のアクセントがずれている部分がクラッシック音楽でもたまに見つかります。
イタリア語から派生して、スペイン語、ポルトガル語、そしてフランス語が出来ていきますが、フランス語はイタリア語の曖昧さがさらに進み、あまり明確なアクセントが無い言語になりました。強弱も高低も無いぼそぼそとしゃべるイメージがフランス語にはあります(本当はぼそぼそと言うことは無いですが)。少し乱暴ですが、フランス語の語学学習の本で、フランス語にはアクセントが無い、と書かれていたのを読んだことがありますが、そんなことは無いです。しかし他の言語に比べて変化が少ないのは確かです。それに伴って音楽と言葉のアクセントの関係性もややあやふやです。母音も曖昧なものが多いので、フランス語の歌を歌う時にどう発音するのか分からなくなることも多いです。さらにアクセントが明確では無い感覚は二重母音を明確に発音することも嫌い、二重母音が書かれていても一つの母音で発音されたり、語尾を発音しなかったりにつながっていきます。そしてフランス語からさらに派生して英語が生まれていきますが、なぜか高低のアクセントが強調されてきたのは興味深いところです。
西洋音楽の特徴として拍子感があることを先ほど書きましたが、和声があるのも特徴の一つです。和声の大きな役割の一つが緊張と弛緩の移り変わりにあります。5度の和音で緊張し、1度の和音で弛緩する流れが和声の基本です。この緊張と弛緩の移り変わりと、言語の明確な強弱の移り変わりがとてもキレイにつながっていきます。そのため、古典的な和声の時代にはドイツ語が一番マッチしていたように思います。音楽の時間に習った作曲家を上げていくと、ドイツ語圏の作曲家がとても多いことに気づきますが、言語のアクセントとの関係も大きかったのではないかと思います。
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