のど仏は甲状軟骨と言われている骨のことです。図1はのど仏を横から見た図です。上の大きな骨が甲状軟骨、下の骨が輪状軟骨です。甲状軟骨のやや下の部分に横にまっすぐな線がありますが、これが声帯です。男性は声変わりの時にこの声帯が急に長くなります。その結果甲状軟骨に収まりきれなくなるので、のど仏が少し出ることで長くなった声帯がきちんと骨の中に収まってくれるようになっています。長くなった声帯のために骨が変形するというのはすごいしくみですよね。

図1の黒い線は通常の骨の位置で、赤い線は喉が開いたときの骨の位置です。声帯が少し傾くことによって引き伸ばされます。声帯の入っているボックス(甲状軟骨)は軟骨ではありますが、骨に囲まれていますので、そのままでは引き伸ばすことは出来ません。図のように傾けることによって初めて引き伸ばすことが出来ます。と言うより、傾けること以外に声帯を引き伸ばす手段はありません。
金管楽器を演奏するにはマウスピースの中の唇が振動しなくてはなりません。つまり声を作る声帯の代わりに、金管楽器では唇が使われることになります。そして金管楽器奏者は最初にマウスピースの中で微笑むように唇を横に引っ張って、唇の振動を作ります。横に引っ張らないと振動がきれいではなく、高い音は全く出ません。ですので、しっかりと唇を横に引っ張る練習をすることになります。声帯も同じでちゃんと引っ張ってあげないときれいな声にならないし、高い声は全くでないことになります。ですので、声帯をちゃんと引っ張る(このことを「喉を開ける」と表現しています)ことが歌うことの最初の作業になるわけです。また声帯が引っ張られると声は少し高くなりますので、しゃべるときに比べて歌う声の中心音は4度から5度高くなるのが普通です。

図2もほぼ先ほどと同じようにのど仏を横から見た図ですが、甲状軟骨と輪状軟骨をつなぐ筋肉「輪状甲状筋」が赤く書かれています。甲状軟骨と輪状軟骨が近づくように傾くことで声帯は引き伸ばされていきますが、これをコントロールするのに最も重要な筋肉がこの輪状甲状筋です。つまり喉を開けるというのは空間を広げるのでもなく、声帯の隙間を広くするのでもなく、輪状甲状筋が収縮し声帯が傾くことを指します。しくみはこのようなもので、説明できますが、輪状甲状筋を収縮させて声帯を少し引き伸ばしてください。と言ったところで当然出来るものではありません。次は実際はどのように感じられるかを書いていきます。
喉を開けるというときにほとんどの人はこの輪状甲状筋の前下への運動ではなく、後上の運動を感じると思います。軟口蓋を持ち上げるとか、鼻の付け根や額に音を感じる等です。例えば輪ゴムを両手で引っ張るとします。両方の手で輪ゴムの端をつまみ、右手で右の方へ引っ張っていくとします。その時に左手は動かさないようにしても、左手は左に向かって引っ張る力を加えなければなりません。このようにある方向に力がかかると反対の方にも力がかかってきます。ですので前下に引っ張ろうとする力が入ると、反対の後上に引っ張ろうとする力も感じることになります。ではなぜ後上向きの力を先に感じるのかというと、声帯が引き伸ばされた時の音はしゃべるときよりも上、鼻の付け根あたりに感じられるからです。実際の筋肉の運動は輪状甲状筋の収縮だとしても、それをコントロールすることが分かりづらければ、その後に感じられることを優先して練習した方がよっぽど良いのです。
軟口蓋を引き上げようとか鼻の付け根に音を感じようとすることによって甲状軟骨と輪状軟骨が近づき声帯が引き伸ばされれば何の問題も無いのですが、そうはいかないこともあります。ちなみに本当に必要な甲状軟骨と輪状軟骨が近づいて状態は見た目でも触っても全く分かりません。多少分かるかと思って何度もやってみたのですが、全く分かりません。私は音質の変化のみで判断します。起こるべき音質の変化があれば必要な声帯の引き伸ばし、喉を開けるという作業は出来ていますし、その音質の変化がなければ足りないことになります。
さて、後上向きの力を感じても本来必要な前下向きの運動が起こらなかったときに、なんとかして前下向きの運動を起こす手段を考えなくてはならなくなりません。ここで「のど仏を下げて」が出てきます。実際には甲状軟骨と輪状軟骨のかたまりが低い位置にあるか高い位置にあるかは声帯の傾きには関係ありません。しかし、前下に向けての力が必要なので、のど仏を下げなさいと言われるようになってしまいました。
のど仏自体を下げる必要が無いことと、のど仏を下げたところで声帯は引き伸ばされない、つまり喉を開けることは出来ないことはお分かり頂けたと思います。それでものど仏を下げる必要があると言われ続けるとそうしなければと思ってしまいます。おそらくたくさんの方が経験したことがあると思いますが、鎖骨の間にのど仏が隠れそうなくらい下げると、音が重たくなってモコモコし、高い音が出せなくなっていきます。もちろんつばを飲み込んだときのように顎の下にのど仏が隠れるくらい上がってしまっても声にはなりませんが、これは別の理由です。甲状軟骨を傾かせるのに、輪状甲状筋だけではなく 胸骨甲状筋も関与しており、これが少し甲状軟骨を下に引っ張ります。しかし、 甲状軟骨と輪状軟骨が近づき声帯が引き伸ばされるシステムでは圧倒的に輪状甲状筋が大切なのです。レッスンの中でこの前下の動きが上手くいかないときに、音が上がるときにほんの少しつま先に体重を移動するような指示を出します。少し横隔膜に力が入り、声帯を傾かせるのに役に立ちます。これが出来たら、この時の音の変化や筋肉の動きを感じてもらって、喉を開けるということについて明確な感覚を持ってもらうことが出来るようになっていきます。
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