テノールにとって高音の獲得はほかの声種より難しく、慎重さと大胆さのバランスが大切になります。
たとえばハイCの音(五線の上のドの音)はほぼテノールの最高音で、この音が必要な曲はそう多くはありませんし、それ以上高い音はごくまれにしか出てきません。それに比べてソプラノではハイCは頻繁に使われるし、それ以上の音もそれほど珍しくありません。
とにかくテノールにとって高音、A,B,H,Cはとても大きな壁を少しずつクリアしていく大変な作業になります。
しかし、発声は個人差がとても大きく、何の苦もなく最初から高い音が出せる人もいるし、長くトレーニングしてもなかなかうまくいかない人もいます。また、柔らかい音だと出せても、強くすると出なくなったり、逆に強く出すとある程度出せても、柔らかい音になるとうまくコントロールできなかったり、短い音は何とかなっても長くは出せなかったり、とにかくいろいろな状況がありますので、すべて同じように練習すれば良いというわけではありません。
また脱力が大切だともよく言われますが、高音がうまくいかないのは、高音を出すのに必要な力がうまく声帯に伝わらないことが原因です。本来の動きを邪魔するような力の加え方をしてしまうことがありますので、そのようなときは脱力は必要ですが、余分な力が入らないことと同時に、必要な力を加えなければ意味がありません。
今日の生徒さんは間違いなくテノールなのですが、高音はなかなかうまくいかない、声質は柔らかく、繊細な表現ができる方です。無理して強く出さず、柔らかい音での高音獲得を目指します。多少無理をしつつ、しかし無理しすぎないように注意しながらのレッスンです。
まず中間域をバランスを確認しながら通常の発声をしていきます。ここに大きな問題があれば今日の高音に向けての練習は先送りです。問題なかったので、高音の練習に入ります。
まずはファルセットを聞かせてもらいました。五線内のAの音からオクターブ上のAの音にウの母音で上がりまた降ります。無理なく出せるようです。しかし、音質ががらっと変わってしまいますので、同じような音質で実声とファルセットが自由に変化できるような練習をします。慣れないとこれだけで大変ですので、随分無理しているようでしたら、ここで今日の高音に向けての練習は終わりです。大丈夫なようであれば少し長く練習していきます。まず高い方の音が支えの弱い音でしたので、極力しっかりとした音で出せるように練習します。なかなか難しいようでしたので、支えの練習を間に入れます。特に高めの音をしっかり支えて出す感覚をつかみます。またファルセットに戻る。音程が届かなくなったら、軟口蓋を持ち上げる練習をしてまたファルセットに戻る。いろいろと調整をしつつ、しっかりとしたファルセットを目指します。
なかなか難しそうでしたが、今日はここまで。オの母音を使いFdurの1オクターブをファラドファドラファの音形で歌ってみます。そのまま半音ずつあげていきます。Cdurまであげていきます。大丈夫、軽い音でハイCが出ました。このまま曲で使えるわけではないのですが、出し続けていくことが大切です。
ファルセットは声門閉鎖を諦めることによりより薄い声帯を獲得できる声です。ファルセットの張力で声門閉鎖を加えられると最高音を出すことが出来ますので、上手く利用できると良いかもしれません。
カテゴリー一覧