学生の頃サイトウ・キネン・オーケストラを初めて聴いたときに、とても驚いたことを良く覚えています。オーケストラの音楽も好きでよく聞いていたのですが、室内楽に比べると繊細さに欠けると感じることも多く、弦楽四重奏等の室内楽をよく聞いていた時期もありました。そんな時に室内楽のような繊細さを持ったオーケストラが出てきたと感動したのを良く覚えています。
サイトウ・キネン・オーケストラは斎藤秀雄さんのお弟子さんたちが中心のオーケストラですが、あるときに小澤征爾さんがテレビでのインタビューで、オケのメンバーは斎藤先生から音楽の文法のようなものを習って、それを共有できているといった話をされたのを見て、なるほどと思いました。前回の「変化について」で書いたようなことも、ほんの一部ですが、音楽の文法だといえると思います。
感覚的に見つけた演奏の中から法則を見つけ出すと、より繊細な表現につながるような気がします。音楽の一般的なものだけでなく、時代の様式にあった法則、さらには作曲家ごとの様式、さらにはその作品の様式にある法則を見つけていきます。これらは誰かに習わないと分からないものではなく、作品を見続けると見えてくるものだと思います。表現の世界は奥深く、だからこそおもしろいのだと思います。
法則が見つかると逆にそれにとらわれすぎて不自由になることもあります。その法則を考えたときの本質が大切であり、実際の表現は常に自由です。
「変化について」で書いた強弱は、本質的には音の緊張感の移り変わりです。場合によっては小さい音の方が緊張が増すこともあり、また変化させないことによりより緊張が増すこともあります。緊張の高いところが強く、緊張の低いところが弱いのが原則ですが、あえて逆の表現もあり得るということです。
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