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オペラについて 1

詩と音楽

 オペラはとても特殊な分野です。基本的に芸術は他の芸術と結びつくことを好みません。シューベルトの不幸の始まりは、ゲーテに認めてもらえなかったことによります。その当時のゲーテはあらゆる分野での有名人で、ゲーテが一言シューベルトの素晴らしさに触れてくれれば、シューベルトの人生は全然違うものであっただろうし、もっと長く生きていられたでしょう。最初にゲーテに送られた曲には「魔王」等もありましたし、まだまだ力が足りなかったわけではありません。
 ではなぜゲーテは良い評価をくれなかったのかは想像するしかないのですが、ゲーテは詩の中ですべてを完結させるべく創作をしています。そこに音楽を付ける時は詩の前面に立って色々な表現をしてほしくなかったのだと思います。詩の全体の雰囲気を表す有節(1番2番のある)のシンプルな曲を好んだのです。つまり音楽が雄弁に語るのを好まなかったのです。

違う分野を結びつけることはなかなか成功しない

 違う分野を結びつけることで新しいものを作り出そうとするのは、割と簡単に思いつく発想ですが、なかなか上手くいかない。一度上手くいってもそれが新しいジャンルとして残り続けることは希有です。例えば美術館で音楽を流されてしまうとどうも良くない。逆にコンサートの時に美術作品を見せられても音楽に集中できなくなってしまいます。たとえムソルグスキーの「展覧会の絵」のような作品で、ちょうど曲に合うように絵を見せてくれたとしても、一度で充分。そのあとは音楽だけを楽しみたくなるのではないでしょうか。
 結局違う分野の芸術をぶつけることで、倍の効果を狙うのでしょうが、逆に考えると、一つに集中できなくなり、それぞれの作品の価値を半減させてしまうことにもつながっていきます。フュージョンさせるという発想は簡単ですが、なかなか成功しません。

オペラは多重に芸術がミックスされている

 しかし、オペラはこれに反し、多重に芸術がミックスされているにもかかわらず、大成功し、さらに今になってもまだまだ続いています。とても珍しいことだと思います。理由はいくつか考えられますが、まずは音楽が発展していく時に必要だった音楽形式を劇の進行に委ねられたことは大きな要素だと思います。
 音楽というと、主題が繰り返されながら大きな流れを作っていくフーガや、パッサカリアやシャコンヌのような主題を色々な形に変えながら演奏していく変奏曲、2つの主題の要素を分解してそれらの組み合わせから音の世界を構築していくソナタなど、形式は重要な要素です。音楽はこれらの形がなくなると、メロディーが次々に生まれてきて、まとまり無くだらだらと続いてしまう恐れがあるのですが、これをすべて劇の進行に任せてしまっています。
 もし頭の固い作曲家達がいて、作曲を難しくしているものの、音楽に高い芸術性を与えている音楽形式を「劇の進行にすべて渡してしまうなどけしからん」として、無理矢理変奏曲やソナタをオペラの中に押し込んでしまったら、オペラは今残っていなかったかもしれません。そう考えたわけではないでしょうが、勇気ある決定ですね。

 少し難しい話になってしまいましたが、オペラが存在し続けているというのは奇跡のようなことだと思います。便宜上レチタティーヴォとアリアという形式が生まれ、レチタティーヴォはその後、歌曲や器楽曲でも新しい発展をしていきます。とても不自然なはずのレチタティーヴォとアリアについてはまた次回書きます。

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