音取りがほぼ出来て、言葉もきれいに入れられるようになった後、さらに良い演奏を目指して頑張っていく事になりますが、なかなか難しいと思うこともあるのではないでしょうか。その時に直観と論理とどちらで進めたら良いかも迷うところだと思います。
例えばもう少し落ち着いた演奏にした方が良いと思ったとします。そこで少しテンポを遅くしてみたり、所々で間を取るようにしたり、少し小さめに演奏したり等試してみるかもしれません。これは直感的に感じたものをきっかけに音楽を作って行く方法です。
逆に先生からはその音は倚音だからもう少しアクセントを感じてとか、クレッシェンドなのだから少しアチェレランドさせた方が良いとか、論理的な指示が出てきたりします。
私はレッスンの時はほとんどの場合論理的な説明をします。そうなると論理的に演奏法を考えているように思えるでしょうが、実際は逆です。まずは直感的に考えます。ただ直感で感じたものは本当にこれで良いのだろうかとか不安に感じるものです。しかし、楽譜をよく読み取っていくと直感で感じた演奏がふさわしいという理由が色々見つかってきます。そうすると自信を持って演奏することが出来る事になりますし、それをレッスンで要求することも出来ます。論理的な理由付けできない直感はすぐに捨てられます。
さらにだんだんとこの論理的な証明は必要なくなっていきます。直感のみで演奏法を見つけていくのですが、その理由を聞かれたら、すべて説明できるように既に論理的になっています。おそらく優れた演奏家はすべて同じような思考回路になっていると思います。例えば音楽のある部分をテンポの揺れの無い確実な安定感で演奏をして、次の部分はテンポの揺れと共にだんだんクレッシェンドをしていく必要があると直感で感じます。その転換点もこの音からというとても明確な一点で分けられます。その後はそれをより確実に演奏できるように練習を繰り返していきます。ここまで論理的な方向の思考は全くないように感じられますが、誰かがなぜそのように演奏したのですかと質問したら、とても明確に、前の部分は和声の変化がゆっくりで、ベースの音は同じ音が続いている。しかし次のシーンでは細かく和音が変化し、ベースも激しく動き出す、さらにメロディーの最高音も徐々に切り上げられているなど、明確な答えが返ってきます。しかし、この論理的な思考は質問が無ければ全く言葉にされなかったものです。直感が明確な理由に基づいていることに確実に自信があるのです。つまりこの時直感は既に論理的に説明できるものになって生まれているのです。
1,直感的にどのように演奏したら良いかを探る。
2,それを試してみて良ければ採用し、良くなければ他の方法を考えてみる。
3,上手くいったらその理由を考えたりすることはしないが、上手くいかなかったら、いろんな手を使ってさらに考えていき、すべての箇所が迷いの無い演奏になるように仕上げていく。
4,通常はここで終わりですが、誰かから質問されたり、本当にそれで良いのか迷ってしまったり、レッスン等で誰かに教えなくてはならないときなどには、言葉にしていきます。
レッスンで論理的に説明をするのには理由があります。同じ曲でも演奏法はいくらでもあります。その時に理由も分からずに先生に言われたとおりに演奏していては、自分の気持ちとは違った演奏を強いられることにもなりますが、理由が分かると、自分とは違う音楽のイメージがあったとしても、先生の音楽を理解して受け入れることが出来るようになります。そしてさらには先生の音楽をしっかり理解して受け入れた後で、自分の発想を加えてさらに先生の音楽を超えた演奏の可能性も出てきます。ということですので、論理的に説明していますが、決して論理的に考えて出てきたものではありません。順番は逆です。
さらに進んだレッスンでは、生徒は既に素晴らしい発想で音楽を作り上げて持ってきます。先生はそれを聴いて生徒の発想のすべてを感じ取ります。その上でまだ未完成な部分、つじつまが合わなくなってしまった部分などをクリアできる方法を考え提案していきます。良い先生であればこの時に無理矢理自分が一番良いと思ったもののみを教え込もうとはしません。色々な可能性を既に先生は知っているので、今の生徒が持ってきた演奏に最適な手を加える方法を考えていきます。プロのレッスンのこのようなやりとりはとても面白いものです。
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