「声が暗い」「こもっている」と表現されることがあります。悲しい曲や深みのある曲では、暗い声の方がふさわしい場合もあります。しかし発声における「暗い声」は、ほとんどの場合、良くない発声を指します。「こもる声」もほぼ同じ意味で使われます。したがって、本来の声の質としての暗さと、発声上で良くないとされる暗さは区別して考える必要があります。
発声において問題とされる「暗い声」は、多くの場合、声帯の閉鎖が不十分な声を指します。声帯がしっかり閉じず、余計に息が漏れると暗い声と感じられることが多いのです。閉鎖が弱いだけだと音量が出ないため、まず「声が小さい」と言われます。暗い声そのものは悪いわけではありませんが、閉鎖不足は良くない発声につながります。
発声で人がコントロールできるのは、声帯の「伸展」と「閉鎖」です。閉鎖に問題があれば当然発声の欠陥になりますが、練習の順序としてはまず伸展を十分にコントロールできることが重要です。その過程では多少「暗い」「こもる」と言われる声も一時的に受け入れてよい場合があります。ですから、安易に「暗い」「こもる」と表現するのは適切ではありません。私はレッスンでそのような言い方は一切していません。
こうした声の対処法としてよく言われるのが「声を前に出しなさい」です。「声がこもるから、もっと喉の奥を感じてみよう」と指導してくださる先生がいれば素晴らしいと思いますが、実際にはほとんど出会いません。多くの人は「こもるのは声を奥に感じているからだ」と考えがちで、喉の奥でコントロールするという発想が受け入れにくいのでしょう。
声を前に出そうとすると閉鎖は強まりますが、声帯の伸展が妨げられることがあります。その結果、短い声帯で歌うようになり、薄っぺらく不安定な声になることもあります。声を前に集めようと努力した結果、軽く浅い声になって面白くないと感じた経験のある方も多いでしょう。
声帯は喉仏のあたり、つまり通常「喉の奥」と感じるよりさらに奥にあります。よく「あくびの声」と表現されますが、実際のあくびは口を大きく開けなければなりません。しかし声帯はもっと奥にあるため、必ずしも口を大きく開ける必要はありません。喉を開けましょうというときにはあくびよりももっと奥を感じる必要があります。この喉の奥で縦に伸ばされる感覚がつかみ、その部分が強く引っ張られると音程が上がる感じがしたら、それが声帯です。文章では難しそうに思えますが、実際のレッスンでは多くの方が初日に実感できます。さらに声帯の強い閉鎖を感じられると、とても力強く、暗くもこもってもいない理想的な声になります。
良くない「暗い声」や「こもった声」の原因の一つは、「声を前に出したときの薄っぺらい声」を避けようとすることにもあります。音楽的な耳を持つ人ほど、この軽薄な声を嫌い、結果として閉鎖の弱い声になってしまうことがあります。
一方で「喉声」と呼ばれる、閉鎖が強いが伸展が弱い声も汚い声になるため、耳の良い人は敬遠します。理想は伸展と閉鎖のバランスが取れた発声ですが、それは容易ではありません。結果として「伸展はある程度あるが閉鎖の弱い声」になり、今回のテーマである暗くこもった声が生まれます。これに対して「声を前に出して薄っぺらい声にしなさい」というのは少々酷な指導でしょう。根本的な修正が必要です。
もし喉の奥で声帯の位置を感じ、十分な伸展の基盤の上で閉鎖が行われれば、最終的に声は自然に「前」に感じられます。つまり「声を前に」という指導が完全に誤っているわけではありません。ただし正しい練習過程を経なければ、「声を前に」と「喉を開けて」が延々と繰り返されることになります。このループにはまって悩む人は少なくないように思います。
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