この曲は2ページと短く、最高音もレまで、後半は繰り返しなので、初心者が歌うには歌いやすい曲だと思います。一カ所だけ、4小節目のようにシからレ♯へ下降の大きな跳躍がありますので歌いにくいと思い人もいるかもしれません。
この曲は6/8です。慣れていない方は音符と拍子記号を一度お読みください。4分音符8分音符の繰り返しが基本のリズムで、ほとんどの部分がこのリズムでできています。この心地よい動きのあるリズムの中で音程の変化の少ないメロディーが頻繁に使われています。音程の変化の少なさは他の曲に比べて特に目立ちます。2度の幅でしか動かないメロディーが最初の2,3小節目、装飾音を除けば8小節目から13小節目まで、また再現部も同じようになります。もしこの曲が6/8拍子でなく、4/4拍子、4分音符の次の8分音符をすべて4分音符に変えてしまうと、おもしろみのない曲になってしまいます。6/8拍子がこの曲の音程の単調さを生きたものに変えています。この曲で3+3の6拍子形になれておくと、これから出会う6,9,12拍子の曲の抵抗感もなくなると思います。
全音の楽譜ではこの曲の冒頭に付点4分音符80と50の2つのテンポが書いてあります。数字が書いてあるとしっかり守らなければいけない気がしますが、そんなことはありません。歌ってみて一番良いと思うテンポを探してみてください。メトロノーム記号に縛られてしまうと演奏者の良さが発揮できないことがあるだけではなく、作曲家が本当にメトロノームで確認して数字を書き込んだのか、さらには作曲家が使っていたメトロノームが果たして正しく機能していたのかという疑問も出てきます。曲によっては表記のメトロノームのテンポでは演奏不可能なこともたまにあります。
詩の内容を無視して、音符のみからこの曲を考えると、少し速めの80に近いテンポが良いように思えます。6/8拍子の心地よさも音程の変化の少なさも、速めのテンポで揺れを感じながら歌うとしっくりきます。14小節目からは今まで動かなかった音程に対して、動き出すことによって感情的なメロディーらしいフレーズになっています。感情があふれ出すといったところでしょうか。
他の部分にも目を向けてみます。音程が大きく動く4小節目はmorir(死ぬ)の直前で悲劇的なドラマを感じさせます。歌いにくい音程を書くことによって、morirを意味深くしています。さらに詩全体を見てみると決して心地よいものではなく、痛みを感じるものです。遅いテンポにしてみると、6/8拍子が持っている心地よい動きが邪魔されることも含めて、この詩の悲劇性が表現されます。
同じ歌詞なのにリピートして2回歌うようになっていますが、1回目は速く、2回目は遅くすることでこの曲の二面性を両方とも表現するといった演奏も考えられます。
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