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表現って何。「違和感」を考える~音楽について52

練習は違和感が無いように進められる

 ある程度音取りができたら、より音楽的に歌うにはどうしたらよいかが、大きな目標になります。今回は「違和感」を通して表現を考えてみます。練習で無理のない発声をするとか、正しい音程で歌うとか、ピアノ伴奏に合わせるとか、ほとんどの練習メニューは「違和感」がないことを目標にしています。しっかりと音取りができているのに、高い音だけ苦しくなってしまうと、これが「違和感」になります。いい声で歌っているのにある部分だけ音程が悪いと、これが「違和感」です。この「違和感」を解消するために一生懸命練習するわけです。レッスンでも先生が止めるシーンは大抵この「違和感」を感じるところです。

一番表情があるのは違和感があるところ

 しかし音楽の中で一番表情が強く表れて感じるのは「違和感」のある部分なのです。例えば同じ高さでしゃべるような音楽があったとします。そこに1音だけ強く出す音があったら、ここに「違和感」を感じることになります。「違和感」のない部分よりも、「違和感」の強いところに一番強く音楽的なものを感じることになるのです。

 和音を考えてみます。和音は基本的に3度上の音を積み重ねながら作っていきます。ドを最初の音にしたら、その上にミ、ソと積み上げます。このように積み上げた和音を協和音といいます。きれいな響きの和音ということです。さらにもう一つ音を積み重ねるとシになりますが、こうなるとドとシで短2度、シ♭にしても長2度の音程ができ不協和音(濁った響きの和音)になります。長短3度、完全4度、完全5度の組み合わせでできる和音は協和音、そのほかが混ざると不協和音となります。例えば踏切の音は短2度の音でできています。誰もが「違和感」を感じ自然に注意を向ける響きです。さらに長時間鳴り続けるととても不快な感じになっていきます。音楽ではこの不協和音に、より強い表情を感じます。

 メロディーは和音の構成音を多く使い作っていきますが、協和音でも表情を強く感じるようにするために、強拍にわざと和音の中に無い音を使ったりします。これを倚音(いおん)といいます。古典の作品にはとても頻繁に使われます。

矛盾

 「違和感」の無いように一生懸命練習するのに、一番表情の強い音は「違和感」の強い音になるというのはなんとも矛盾するところです。でもこれで良いのです。「違和感」の無い歌が歌えるからこそ「違和感」が強調されます。例えば高い音になるといつも苦しくなってしまうと、本当に「違和感」を感じたい音に「違和感」を感じられなくなってしまいます。音程が常に不安定だと、強い不協和音の「違和感」が薄れてしまいます。強い「違和感」の表現のために一生懸命「違和感」の無いように練習するのです。

 きれいに歌っているのに、表情の乏しい演奏もあります。一生懸命練習して歌っているのに、表情が無いと言われて悩んでいる人は結構たくさんいらっしゃいます。苦しい音も必要なのです。崩れたリズムも必要なのです。ずれた音程も必要なのです。それらが必要なところで使われ、逆に必要で無いところでは「違和感」無く歌えることが表情のある演奏につながっていきます。リズムを少し崩すのは良いとしても、音程は正確で無ければと思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、プロの演奏家は結構音程を遊ばせています。ヴァイオリンの「ツィゴイネルワイゼン」をすべて正しい音程だけで弾いたら、なんともつまらない演奏になってしまうでしょうね。

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