声楽科の学生の中には中高校で合唱部に入っていて、それがきっかけでプロの声楽家を目指している人たちもたくさんいます。合唱音楽も合唱団の雰囲気もとても好きで、ソリストを目指してはいるものの、合唱の活動も続けたいと思うことも多いのですが、専攻の先生に合唱はだめだと言われてしまうことも良くあります。
先生に逆らうわけにもいかず、合唱を諦める人も、先生にばれないようにこっそり続ける人もいて、なんとも不自由な状況があります。でもなぜ声楽の先生が合唱で歌うことを良く思わないのでしょうか?単に意地悪でということもないでしょうから、今までの経験で、合唱で歌うことが専攻の練習に支障をきたすことが多々あったのだと思われます。その理由を考えてみます。
一つは歌いすぎてしまうこと。合唱団は1回2~3時間の練習があるでしょうし、合宿があると場合によっては朝から晩まで1日中歌うこともあります。すべてをちゃんと歌ってしまうと、喉を痛める危険性が出てきます。さらに喉を痛める原因になるのが、ソロの曲は喉に負担がかかりすぎないようにしながら、それでもトレーニングになるように少し挑戦の必要な部分もあり、それでいて無理の無いように慎重に曲を選んでいきますが、合唱曲は個人の声の状況など無視して選曲されます。とにかく合唱で喉を疲労させていると、専攻の練習が出来ないという事です。
もう一つは発声です。声楽科の学生にとってより大きな声、より高い声はとても重要な目標です。しかし、合唱では声楽科の学生が一番楽に出せる音量で歌うとたいてい大きすぎますので、常に少し押さえた発声をし続けなければならなくなります。大きな音を無視して出すのはもちろん喉に負担がかかりますが、少し押さえて歌うのもやはり喉に負担がかかります。
他にもありますが、とにかく喉に負担がかかり、専攻の練習に充分エネルギーを注げなくなってしまうことが大きな原因です。しかし同じ音楽です。合唱での音楽体験が専攻の勉強にも活かされていくのが一番良いはずです。音程練習はもちろん、他のパートを聴くこと、一人だと経験できない規模の音楽に触れられること、自分一人だとなかなか到達できないような音楽の深みを体験できることもあるなど、合唱の魅力はたくさんあります。対立するのではなく、それぞれの利点がそこで歌う一人一人にプラスになっていくような活動になっていければと思います。
声楽の先生は禁止ではなく、どのように喉に負担をかけずに合唱の練習に参加できるか一緒に考えるべきで、合唱の指導者は無駄に声を出す時間を減らすように工夫する必要があります。
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