今回もレッスン室で受けた質問です。
その日の生徒さんはいつもと違って引きつったような表情で、固い声を出していました。何かあったのかと思い聞いてみると、その方はある合唱団で歌っているのですが、指揮者からあなたの声は暗いからもっと明るくしなさいと言われたそうです。良く聞く話ですが、無理してほおを引き上げ、硬い表情の乏しい声になってしまうことも多いです。どのようにしたら明るい声になるのだろうかとの質問でした。
どうも日本では明るいものは良く、暗いものは良くないという評価をされることが多いように思います。性格でも明るいは褒め言葉になりますが、暗いというのは良くないと思われがちなようです。暗い性格も僕は大好きです。あまりにも色々なことを悲観的に考えすぎると人生が大変になりますが、しっかり物を見て考えることから全ての芸術は始まっていくと思います。
話が少しそれてしまいましたが、深い音楽には暗い音が必要だし、いきいきとした音楽には明るい音が必要です。本来的には明るいには価値があり、暗いは良くないと言うことはないのです。指導される方も是非明るい暗いの言葉を使わず、別の表現をしていただければと思います。
では良いとされる明るい音と良くないとされる暗い音では何が違うのでしょうか。 一般的に暗い音は声門の閉鎖が悪い音を指すようです。ぼやけた感じの音で、音程が定まりにくく、どちらかというと下がり気味になりやすい音です。声門閉鎖が問題であって、実は明るいか暗いかが問題ではないのです。
確かに頬骨を持ち上げる感じで上あごの前に声を感じると一時的に声門閉鎖は強くなり、問題が解決されたように感じられますが、長くやり続けると声帯の伸展筋の働きが悪くなり、表情の乏しい薄っぺらな白い声といわれる声になっていきます。明るい暗いで判断するよりも、正しい声門閉鎖を見つけることが大切です。
音程をしっかり合わせようとするのも、有効な手段の一つです。レッスンの中では、声門閉鎖の話はせずに、音程に注目することだけを指示することがあります。実は音程を正しくすることが目的ではなく、声門閉鎖を見ていたりします。もちろん生徒さんは声門閉鎖のことをわかっている必要はなく、ただひたすらに音程を聞こうとすればよいのです。
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