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歌の呼吸と通常の呼吸~呼吸法27

歌に必要な呼吸法

 歌うときに特別な呼吸法が必要かというとそんなことはありません。通常の呼吸と同じです。しかし、次の2点だけ必要なことがあります。繊細なコントロールが出来ることと、多少の強化が必要なことです。ただ、いつもの呼吸とは違うものを身につける必要は無いということは重要です。

 音楽大学の教授の古い論文で、イタリア人は腹式呼吸をしているが、日本人は胸式呼吸をしているので、西洋音楽を歌うためには腹式呼吸を身につけなければならないと書いてあるのを読んだことがあります。その他にも男性は腹式呼吸をしているが、女性は胸式呼吸をしているとか、腹式呼吸を身につけなければ歌は歌えないとか。もちろんこれらはすべて正しくありませんが、今でも歌のためには特別な呼吸法を身につけなくてはならないと思っている人も多いようです。

腹式呼吸

 呼吸では常に横隔膜が上下します。これ無しにはほんの少しの呼吸も出来ませんので、横隔膜を使った呼吸が腹式呼吸だとすると、すべての呼吸が腹式呼吸であり、特別な訓練など必要ありません。では歌のための呼吸として必要なことは何なのかということを考えてみます。

横隔膜について

 ここでは横隔膜に限定して考えます。横隔膜が下がることにより空気が肺に入り、上がることにより空気が肺から出ていくことは簡単に分かると思いますが、これだけだと声にはなりません。声帯が閉じる必要があります。そしてこの声帯の閉鎖に横隔膜が関係します。しかし、これも特別な訓練が必要なのでは無く、日常に使っているものです。重い荷物を持ち上げるときにお腹に力が入りますが、その時に息が止まる(声帯が閉じる)、事は容易に感じることが出来ます。逆に、急に「あっ」とやや強めの声を出そうとすると、お腹に力が入るのも分かると思います。横隔膜に力が入ると声帯は閉じ、逆に声帯を閉じると横隔膜に力が入ることが分かります。この連動が発声に大切なことになります。練習するポイントは新しい呼吸法では無く、横隔膜と声帯の連動を自在にコントロールできるようにすることです。

横隔膜が広がること

 これは横隔膜の中央に向かって集まるような運動です。ですので、これだけだとバランスが悪くなってしまいます。真ん中に集まるのであれば外に広がる働きが同時に起こってこなければ成立しません。よくトランポリンに例えるのですが、トランポリンの真ん中でしっかりジャンプすると、真ん中に集まる力が働きます。これを成立させるためにトランポリンの周辺はとても強いバネで外に引っ張られています。横隔膜も真ん中に向かってしっかり収縮させるためには周辺は開こうとしなければなりません。そしてこの運動が声帯の伸展に関与していきます。声帯はこの伸展と閉鎖の運動バランスですべての音を作ります。この2つの性質に横隔膜が大きく関与するので、呼吸はある意味大切なのですが、日常の呼吸と全く同じということがとても大切なことなのです。

久米音楽工房
久米音楽工房

横隔膜がしっかりと真ん中に集まるように力が働くと声帯が強く閉じます。これが十分に働くために横隔膜はその円周の方向に広がる必要があります。このことから、間違った考え方ですが、息を吸う時にお腹が膨らむように吸う必要があると考えられたり、そうなるとお腹がふいごになったようにお腹が膨らむように息を吸って、それがしぼむように息を吐くことが腹式呼吸だと考えられたりもするようです。このように、考えることが実際と食い違っているのに、それが正しいと思い込んでしまうことは多々あります。私自身いつも注意していることの一つです。

 横隔膜と声帯の連動が感じられるようになれば、音程の変化や音量の変化、音質の変化をお腹でコントロールしているように感じられるように歌うことが出来ます。この状態をお腹で歌うとか、腹式呼吸で歌うとか名付けられているというわけです。

 

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