シューマンの歌曲集「ミルテの花(Myrten)」の第1曲目です。この歌曲集は26曲からなり、最後は「終わりに(Zum Schluss)」で終わります。歌曲は1曲だけで出版されることは少ないので、たいてい歌曲集になります。普通は5つの歌曲、もしくはゲーテの詩による5つの歌曲等の名前が付くだけですが、時折この曲のように特別な名前が付くこともあります。こうなるとまとめて演奏すべきか考えてしまいます。バラバラで演奏されることがほぼないものとしては、シューベルトの「冬の旅」「美しき水車屋の娘」シューマンの「詩人の恋」などが挙げられます。
さてこの「ミルテの花」ですが、ほとんどまとめて演奏されることはありません。26曲もありますので、全曲を演奏するとなると一晩のコンサートはこれのみになってしまいます。まとまりが無いこともないのですが、ストーリーやテーマのまとまりがあるというわけでもありません。バラバラで演奏して問題ないと思いますが、あまり知られていない曲も目を通してみることをおすすめします。
Widmungを考えていきます。8分音符中心の最初の部分、3連符中心の真ん中の部分、4小節のつなぎの後、最初の部分が戻ってくる3番目の部分で、シンプルな3部形式です。
この曲を練習するに当たって、テンポ設定が難しいと感じる方も多いと思います。テンポに関しては冒頭に言葉で指示があることが多いですので、見てみます。Innig, lebhaft(内的に、生き生きと)と書いてあります。なおのことテンポが分からなくなってしまいます。Innigは少し遅めのテンポを考えます。そしてlebhaftは速めのテンポにします。直接テンポを表す記号ではありませんが、遅く、そして速くといっているようなものです。
楽譜に書いてあるものは無条件に受け入れがちですが、このような違和感を見つけることによって、音楽をより深く知るきっかけになることもあります。無条件に受け入れることが作品を大切にすることだとは限らないということです。
記号は当てにならないので、音符を見てみます。ピアノの伴奏は1拍目上行形、2,3拍で落ち着くような形が続きます。これは珍しい形です。音楽が自然に聞こえるためには、2拍の上行形、3拍目で落ち着く方が安定します。この形は安定を壊す方向です。この音形を感じながら歌うと、lebhaftがピッタリで、速めに音楽を感じていくとしっくりしそうです。
中間部を見てみます。1拍が8分音符4つだったのが、3連符に変わり、4分音符3つになります。1拍が4つの音だったのが3つに変わります。このことにより、テンポを変えずに音楽は落ち着いていきます。しかし、最初の部分を速く演奏しすぎると3分割に変わってもゆったりとした感じが出てこなくなります。
よく使われる方法ですが、最初の部分だけ見てもテンポがはっきりしない時には、その後を見て、テンポが定まりそうなところから逆に最初のテンポを探っていきます。生き生きとした感じを持ちながら、やや落ち着いたテンポに行き着くことでしょう。これがlebhaftでありながら、innigな音楽になっていきます。
実は非常に動きのある伴奏形を使いながら、和音の変化は穏やかなので、冒頭も激しいだけの音楽になっているわけではないことが分かります。innigとlebhaft両方の要素が同居するのですが、innig寄りの演奏もlebhaft寄りの演奏もあります。
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