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Ombra mai fù~イタリア歌曲 9

 ヘンデルのオペラ「セルセ」の冒頭で歌われるアリアです。レチタティーヴォとアリアからなり、この曲でレチタティーヴォに初めて取り組むという人も多いかと思います。全音のイタリア歌曲集の楽譜は実際の曲とは多少違いがありますので、ヴォーカルスコアではありますが、載せておきます。

 細かい違いが色々あります。2小節目のbelleのように、同じ音で書いてあるところを最初の音を2度高く演奏するのはこの時代の演奏ではよくありました。全音の楽譜では元々2度高く書かれています。platanoは少しリズムが違っています。4小節目のresplende il fatoの部分は伴奏のベースの音ドファのところはfatoと同時に演奏されるような楽譜になっていますが、実際の演奏はfatoを歌い終わってからドファと入れます。1拍多くなってしまいますが、そのように演奏します。全音の楽譜ではそのように考えなくても歌が終わってから伴奏が入るように変えてあるため、1小節長くなってしまいました。v’oltragginoは少し音の高さが違いますが、意図的に変えてあるわけではありません。ミスでしょう。レチタティーヴォ最後の小節の全音版の伴奏と歌のずれは元々の楽譜を使ってもずらして演奏することがあります。最後の和音も歌のあとに入れるように書き換えてあるため1小節長くなっています。また最後の和音にフォルテの指示がありますが、元々はありません。個人的にはピアノの方が良いのではないかと思います。
 どちらかというと当時の演奏習慣を音にするために実用版のような書き換えがなされていますが、少し違うところもありますので、どのように演奏するかはよく考えた方が良いでしょう。

 アリアに入っても色々とありますが、いくつかだけ書きます。前奏の4小節目で元々は16分音符2つと8分音符でかかれてあるリズムが、全音ではすべて3連符になっています。大きく違うわけではありませんが、少し雰囲気が変わります。少し柔らかいイメージにするための書き換えだったのかもしれませんが、この曲の演奏としてふさわしいかは疑問です。次は音楽の本質に関わる部分ですが、伴奏の低音は常に4分音符を刻み続けています。それが途切れるのが少しだけあって、元々の楽譜では15小節目の歌が始まるところ、次は終盤のフェルマータのところ。この2カ所だけですが、全音の楽譜では、24,26,33,55,小節目に4分音符の途切れるところが出てきます。26,55小節目は元々の楽譜と同じなのですが、24,33小節目は違います。これが意図されているのかを考えてみます。

 この曲は平和でありますようにと祈る曲です。劇としては冒頭に平和を歌う以上は平和を壊す出来事が起こるのでしょうが、そのことは後の話として、平和を考えてみます。例えば今の日本を平和だと思いますか、と尋ねたらほとんどの人が平和だと答えると思います。ではこれが永久にと問われると、そうあれば良いのだけれど・・・となってしまうかもしれません。平和は今の瞬間と同時に永遠かどうかが大切なのです。ヘンデルはこの曲で時の歩みのような4分音符のリズムを全体に続けることにより、永遠の平和を音にしたのではないかと思います。つまり途切れずに時を刻み続けなければならないのです。全音版の編曲ではこれが無視されています。残念ながら編曲者はヘンデルの意図を理解できなかったのです。
 楽譜はそのまま演奏するのが必ずしも良いわけではありません。楽譜を読む必要があります。

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