単語はいくつかの音節に分けられ、
普通は1つの音節に1つの音が当てられます。
声楽曲のスラー記号は他の分野のものと比較すると、
特別な使われ方をしています。
本来ならばスラーが書いてあるとそれらの音を滑らかに演奏します。
逆に考えるとスラーの前後は少し切れ目があった方が良いという事になります。
しかし、歌の場合はその意味ではなく、
1つの音節をいくつかの音に渡って歌う場合に場合にスラーを付けます。

ベートーヴェンの第9交響曲の4楽章冒頭のバリトンソロの楽譜で見てみます。

(この楽譜の3小節目から4小節目にかけての2つのミの音はタイを付けるべきところですが、楽譜が間違っています。)
最初のO Freunde, nicht diese Töne!を音節に分けると
O Freun-de, nicht die-se Tö-neの8つとなり、
Freunde diese Töneの3つの単語のみ2つの音節からできています。
この1行の詩は8つの音節でできていますので、
通常は8つの音を使いますが、
1つの音節で2つ以上の音を使うともっと音は多くなっていきます。
1行目のFreunの音節にはタイは1音とすると5つの音、
2行目のangenehmereのanのところには9つの音、
3行目のfreudenvollereのfreuのところには21もの音が付けられています。
このように1つの音節に複数の音が付けられている部分をメリスマといいます。

古い音楽にはメリスマは多用されることが多く、
新しくなると長いメリスマは少なくなっていきます。
古い音楽のメリスマの役割は基本的に強調です。
大事な言葉は音を高くしたり、
アクセントの付けられるようなところにおいたり、
長くしたり、色々な手法を使い強調しますが、その一つにメリスマがあります。
長くなりすぎるともはや何の言葉だったのかも分からなくなっていきますが、
それでも言葉の強調です。
第9の楽譜に戻るとまずは「友よ」と呼びかけるFreundeのアクセントの部分Freuにメリスマ、
次はこの曲全体で探し求められる真実の音楽の「心地良さ」angenehmereのanの部分、
最後は「歓喜に満ちた」FreudenvollereのFreuの部分、
すべて大切な部分がメリスマで拡大されて歌われます。

さてメリスマは最初からきれいに歌える人もいますが、
とても苦労する人もいます。
まずメリスマの2つの歌い方を考えます。一つはとても滑らかにつなげて歌う歌い方、
もう一つは各音の間に少しHを入れる歌い方です。
例えば第九の例の2つめのメリスマangenehmereのanの部分は「ア」で伸ばしますが、
滑らかに「ア」で歌うのと、「アハハハハ・・・」のように少しHを入れる歌い方です。Hが全くないと、音程があやふやになりやすく、Hが多すぎるとゴツゴツした感じになってしまいます。
どちらが良いというわけでもなく、
音楽に合わせて使い分けられればよいのですが、
Hの入った形での練習をおすすめします。
基本的にはレガートに歌うのですが、
音の間にかすかにHが聞こえ続けるようにしていきます。
音程やテンポがはっきりしない時にはとても有効です。
もちろん音程やテンポリズムが安定してきたら、
音楽的に良いと思う方を選択すれば良いです。
メリスマがキレイに歌えると言うことは、
安定した発声が出来ているということにもつながりますので、
発声の良し悪しの目安にもなります。

レッジェーロ、リリコ、スピント、ドラマティコと声帯~声の重さの分類
最後にメリスマMelismaは、
アジリタagilitaとか、
コロラトゥーラcoloraturaともほぼ同じ意味です。
ロッシーニはアジリタといわれることが多く、
コロラトゥーラは現代ではハイソプラノのイメージが強くなっています。
ロッシーニを得意とする歌い手はHをしっかり入れる歌い方をしている方が多いようにも思います。
レッスンでは曲とは別に発声の時にも速い音の動きを使って、
声帯の運動の柔軟性を作ることもあります。
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