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誰でも練習すれば上達するのか?

最初のレッスンで

 最初にレッスンにいらっしゃる時に自信満々でいらっしゃる方もごく少数ありますが、大抵はとても不安げに、本当に練習すればもっと良く歌えるようになるのだろうか、という思いでいらっしゃる方が多いようです。自分で歌ってみたらとても良く歌えたので、プロの目から見たらどうなのかを知りたくていらっしゃる方は、前者のような感じでとてもうらやましくもあります。この場合は上手くいっている部分の伸ばしつつまだ足りない部分の練習をすることにより、さらに可能性が広がっていきます。結構楽しくレッスンできるようです。ただこのような方は少なく、ほとんどの方が上手く歌えていないと思っていて、本当にレッスンを受けていってなんとかなるのだろうか?と思いつつも勇気を振り絞ってレッスンにいらっしゃります。

発声トラブルの原因は明確

 このことについて2つに分けて書いてみます。1つは発声のこと、もう1つは音楽のことです。まずは発声から。

 広い音域を無理なく歌うことが出来、声量もあり、さらに安定していればおそらく自信たっぷりに歌えますが、何かしら不安な部分があることがほとんどですので、果たしてその問題が本当にクリアできるのかが不安になってしまいます。上手くいかないことがある時にその原因は明確です。なんだか分からない原因で歌いにくいことはありません。ですので、その原因を解消していくとどんどん声は変わっていくものです。ただし問題になっている部分、その原因、解決方法がしっかりしていないと、練習したのになかなか上手くいかないということもあります。例えば歌といえばお腹に力を入れなければいけないと考えやすいですが、声帯がきれいに伸びないために歌いづらくなっているところに、無理してお腹に力を入れると、さらに声帯は縮まってしまい、逆効果になったりします。また、喉を開けることもよく言われますが、ちゃんと声帯を閉じて練習しないと、ほえたような声になり、疲れやすいし音域も狭くなってしまいます。発声練習は病気の治療に似たところがあります。症状と原因を考えずにむやみに良さそうな薬を飲むことはかえって害になることもあります。適切な治療法を考えることが大切です。誰かに効果的だった練習法方が誰にでも有効では無いということです。

ここは少し難しい事を書きますので、読み飛ばしても大丈夫です。

 発声が上手くいかない原因は明らかだと書きましたが、指導者の頭の中を少し見てみます。

 はじめての生徒さんでも一度演奏を聴いたり、もしくは数分の発声をすると、その人の発声の何が良くてどこに問題があるのかはほぼ分かります。一例を挙げてみます。架空の生徒さんのはじめてのレッスンです。声帯の張力の変化は確かにあるが、2度、3度のわずかな音程の変化ではその運動が積極的には起こらず、音程と喉の形が繊細には一致していない。横隔膜も声に合わせて変化しているものの、少し堅くなっていて柔軟性に欠ける。音を伸ばした時に声帯が固定されてしまい、音の伸びやかさに欠ける。しかし、音に安定感があり、声門の閉鎖も強い。さらに広い音域を持っているが、胸声がほぼ使えていない。一部ですが、このようなことはすぐに分かります。別に難しい事でもありません。

 ここから具体的な練習メニューを作ることになりますが、これが難しいところです。この例だと緊急に手を付けなければならない大問題はありませんが、声帯の張力の変化が自在にならないところに色々な問題の発端があることが分かります。胸声の練習も大切ですが、これは後回しです。そしてそれは筋力不足から来るのでは無く、コントロールの問題だということも分かります。そこで声帯の張力を変える練習をしていきます。これも少し器用な人であればすぐに出来るのですが、難しい人もいます。

 この声帯の変化は音質の変化で捉えられるものなのですが、音質の変化を上手く聞き取れない人には難しい課題になります。ピアノに合わせて発声できているのだから耳が悪いわけでは無いのに、この変化が聞き取れないのは今まで音質の変化にはあまり関心を持たずに歌ってきたということでしょう。耳の良し悪しは音程が正しく聞き取れたり、正しいリズムが分かるだけでは無く、音質等の他の要素もあります。ここで目標は声帯の変化では無く、それで感じられる音質の変化をどうやってつかむかという事にシフトしていきます。例えば、声帯の張力の変化が自在で無ければ、音程を動かした時にほんの少し音程が上がりきれなかったりするものですので、音程をしっかり聞き分けられる耳があるようなので、音質では無く、音程に集中してもらいます。そのうちにより正しい音程が作られた時に、例えば筋肉の独特の動きを難じるかもしれません。このようなことが音質を聞き分けるきっかけになっていきます。それが進んでいくと、半音でも音程が変わると、声帯の張力が変化しないと気持ち悪くなって、無意識に声帯のコントロールが出来るようになってきます。こうなるともうこの練習は必要なくなります。その後は次の問題、喉の動きと横隔膜の連動に移っていったりします。とにかく課題はとても具体的ですので、練習しても上達しないとこは考えられません。ただしそのスピードは個人差があります。

音程のこと

 音楽に関しては色々な要素がありますが、とりわけ正しい音程で歌えるかが最初に気になるところだと思います。音程も色々あります。何の曲を歌っているのか分からないくらいずれていたり、何を歌っているかははっきり分かるが、所々明らかに音程が違うところがあるとか、普通に聴いていると全く音程には問題が無いように聞こえるとか、もっと良いとその音の表情をより明確にするように生きた音程が聞こえる等様々です。音程に関してなんとなくは分かるが、明確には分からないという人も多いと思います。そうなると生まれつきの耳の良さが関係しそうに思われますが、それ以上に音程を聞き分ける練習(習慣)が重要になります。音程に苦手意識がある人も間違いなく音程に自信を持って歌えるようになります。

何歳まで歌えるか?~レッスン室での質問~レッスンで 10

 日本語には声高(こわだか)に話すとか、声高に笑うといった表現があります。文字通り考えると高い声でと言うことになりますが、この言葉は決してそうではなく、大声を指します。つまり音の高さと音の大きさが区別されていないのです。日本では音の高さの区別はそれほど重要ではなかったということです。日本は島国ということもあり魚を食べる文化が昔から根付いていました。そのため魚の種類を表す言葉はとても多いです。出世魚は大きさによって4~5種類の呼び名があることもあります。逆に英語で牛を表す言葉はたくさんあります。ちょっと調べてみました。cow(雌牛)、bull(去勢していない雄牛)、ox(去勢した雄牛)、cattle(畜牛)、calf(仔牛)、beef(食用の牛肉)どれだけ牛が身近なものなのかが分かります。関心の薄いものに関しては言葉も明確に使われず、関心の高い分野ではとても細かく言葉が使い分けられている例です。

 少し話がそれましたが、日本人はそれほど音の高さに敏感では無かったのです。今はもっと敏感になっていますが、育ってきた環境や、何に関心があったかなどで、今どのくらい音の高さを聞き分けられるかは変わってきます。しかし、今音程がよく分からない人も音程に関心を持って聞き続けていくと、誰もが自信を持って音程を聞き分けることが出来るようになります。一例ですが、音程が苦手な生徒さんに同じ音程で大きな声と小さな声を聴かせて、この2つの音程はどちらが高いか、もしくは同じでしょうか?と質問をすると、結構な割合で、同じ音程にもかかわらず、大きな声が高いと判断することがあります。高さと大きさの区別が明確ではないのです。ただ数ヶ月後に同じ質問をすると、すべての生徒さんが正しく答えられるようになります。この数ヶ月の練習の間で、音量と音程を聞き分ける練習が進んだのだと思います。音量や音質が変わっても同じ音程が分かるようになると、次の音が上がったのか下がったのかの判断も正確に出来るようになります。これらの積み重ねで音程はどんどん良くなっていきますので、どうも音痴になっていると思われる方は、音程にものすごく集中して音を聞く習慣を付けていくと、絶対に良い音程で歌えるようになります。

 それでも生まれつき耳の良い人と悪い人がいると思われるかもしれませんが、実は誰もがとても良い耳を持っています。その例です。PaPiPuPePo(パピプペポ)とBaBiBuBeBo(バビブベボ)はとても近い発音で、両方とも唇を一旦閉じで開く時に発音する音です。違いはPの瞬間は声帯は振動せず、Bの瞬間は声帯が振動するだけです。この瞬間的なごく短い声帯の振動をちゃんと聞き分けてどちらの発音かを聞き取っています。すごいことです。BとVの発音は外国語の勉強をする時にとても良く指摘されるところですが、Vは下唇と上の歯の間を息が通る音です。両方とも声帯は振動します。先ほどのPとBの違いより、このBとVの違いの方がはっきりしているのに、日本人にとっては課題になる発音です。理由は明確です。Vの発音が日本語には無いからです。耳の良し悪しが生まれつきだとしたら、パ(Pa)とバ(Ba) が聞き分けられずに困っている人がいそうですが、今まで生きて生きてそのようなことは一度も聞いたことがありません。とにかく音程は音の高さを聞く習慣が鍵になります。

特殊な例

 いくつかの例を書きましたが、正しく練習していくと必ず上達していきます。逆に練習しても上達できない理由がありません。もちろんそれでも上手くいかない時もあります。声帯がガタガタに荒れてしまっていたり、声帯を動かす神経や筋肉にひどい損傷があると上手くいきません。この場合歌だけでは無く、しゃべることも難しくなります。しかし、多少声帯が荒れていても、その他の問題があっても声の可能性は結構あるものです。歌が歌いにくくても普段のしゃべることに問題が無ければ、声帯やその周辺の筋肉、神経に重大な問題があることはほとんどありません。またひどい難聴の場合も音程を聞き分けることは難しいと思いますが、普通にテレビの音などが聞こえるのであれば、音程だけ聞き分けられない理由がありません。

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