ヴィブラートはお腹でかけるとか、
横隔膜でかけると言われることがあります。
そうすると、お腹を揺らすことによってヴィブラートがかかるように感じられますが、
本当にそうでしょうか?

ヴィブラートは規則的な音の揺れです。
音の揺れには2種類考えられて、一つは音程の揺れ、
もう一つは音量の揺れです。
そしてヴィブラートは音程の揺れです。
半音よりももっと狭い音程の揺れですが、
やや広めに揺らすことも、とても狭い音程で揺らすこともあります。
そして速度も速いものもゆったりしたものもあり、様々です。
これらすべてヴィブラートは音程の揺れです。
とても広い揺れになってしまうとトリルと同じになります。
ということでトリルとヴィブラートは親戚みたいなものです。

強弱の揺れは、例えばガタガタ道を車で走っている時にしゃべると声が揺れます。
体が揺られることによって、横隔膜も揺らされて、
声門閉鎖が強くなったり弱くなったりします。
この結果声が強くなったり弱くなったりする、
強弱の揺れが起こります。
そして、このタイプの揺れは演奏には使いません。
つまり、横隔膜を揺らした揺れはヴィブラートではないという事です。
ではヴィブラートは何かというと、喉の揺れです。
ここでいくつかの疑問が起こります。
1,はたして喉が揺れても良いのかどうか?そして、
2,なぜ横隔膜(お腹)でヴィブラートをかけると言われることがあるのかという事です。

1,声帯を揺れないように固定させてしまうと、
振動にしなやかさがかけてしまいます。
また声帯は長さや薄さを常に音楽の要求に合わせて変化させないといけないのですが、
堅く固定されてしまうと変化に対応しづらくなります。
ほんの少し揺れている状態、
もしくはいつでも揺らすことが出来る状態が、
声帯にとって最も自然な状態なのです。
しかし、これとは別に音の揺れが出来ることがあります。
声帯が不安定になってしまい、その結果音が不規則に、
もしくはコントロールできない状態で揺れてしまうことです。
これは声帯周辺の筋肉やそれを支えている筋肉のトラブルから起こります。
たいてい筋力不足やバランスの悪さが問題です。
つまり良いヴィブラートと悪いヴィブラートがあることになります。
声が良くなってきた時に、「ヴィブラートがきれいになってきたね」
というヴォイストレーナーの言葉も良く聞かれます。
さらに、あまり音量を出さなければノンヴィブラートでも問題はないのですが、
大きな声の時にノンヴィブラートで頑張ると喉にとても負担がかかります。
ルネッサンスの音楽ではヴィブラートはほとんど使われないのに対して、
オペラでノンヴィブラートはあり得ません。
様式の違いだけではなく、危険を伴うのです。

2,結局ヴィブラートは喉の揺れなのに、
なぜ横隔膜でヴィブラートをかけなさいと言われるのでしょうか?
まずは、横隔膜でヴィブラートをかけるというのは間違いです。
しかしなぜこのように言われるのかを考えたいと思います。
先ほどの不安定なヴィブラートに関係があるのです。
常に揺れているのに安定しているためには、
どこかでしっかりと支えられている必要があります。
この時に横隔膜が大きく関与してきます。
通常の発声で必要なことと同じですが、
ほどよく働き柔軟性を持った横隔膜が必要になるわけです。
決して横隔膜で揺らすのではなく、良い発声をするための横隔膜が必要だという事です。
絶対にお腹で揺らそうとは思わないで下さい。
と書きながら混乱させてしまうかもしれませんが、
ヴィブラートの揺れは横隔膜でも感じられるし、
そのときの横隔膜の揺れを先に作ることで、
少し過度な感じにはなりますが、ヴィブラートは作れます。
泣きを入れるといった表現をされたりもします。
レッスンでも利用しますが、通常のものではありません。
- ヴィブラートにお腹は関係ないのでしょうか?
- そうではありません。
ヴィブラートは声帯の揺れです。
音楽の表情と、声帯を守る役目があります。
しかし、少なからず不安定な状態になりますので、
どこか別のところに安定を作り出すものが必要になります。
それが横隔膜です。
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